切除不能進行膵癌患者に対する成分栄養剤エレンタール®配合内用剤による栄養治療の有用性

【監修】岐阜大学医学部附属病院 第一内科 助教 上村 真也 先生
日本における膵癌診療では、診断時には約80%が切除不能であり、化学療法が主な治療となる。
切除不能膵癌に対しては、FOLFIRINOX(FFX)やゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)などの化学療法により、奏効率や生存期間(OS)の改善がみられるようになったが、予後は依然として不良であり、長期生存が得られる症例は限られている。
また、膵癌患者では低栄養・サルコペニア・悪液質が高頻度に認められ、これらは化学療法の忍容性、治療効果、QOL(生活の質)、さらには生存期間にも悪影響を及ぼすと考えられている。
本研究では、化学療法を受ける進行膵癌患者において、エレンタール®配合内用剤(ED)を用いた栄養治療が化学療法の治療効果や生存期間に及ぼす影響を検証した。

「禁忌を含む注意事項等情報」等は、Drug Informationをご参照ください。

エレンタール®は厚生労働省より基礎的医薬品に指定されています
効能又は効果 本剤は、消化をほとんど必要としない成分で構成されたきわめて低残渣性・易吸収性の経腸的高カロリー栄養剤でエレメンタルダイエット又は成分栄養と呼ばれる。一般に、手術前・後の患者に対し、未消化態蛋白を含む経管栄養剤による栄養管理が困難な時用いることができるが、とくに下記の場合に使用する。
  • 未消化態蛋白を含む経管栄養剤の適応困難時の術後栄養管理
  • 腸内の清浄化を要する疾患の栄養管理
  • 術直後の栄養管理
  • 消化管異常病態下の栄養管理(縫合不全、短腸症候群、各種消化管瘻等)
  • 消化管特殊疾患時の栄養管理(クローン氏病、潰瘍性大腸炎、消化不全症候群、膵疾患、蛋白漏出性腸症等)
  • 高カロリー輸液の適応が困難となった時の栄養管理(広範囲熱傷等)
エレンタール®配合内用剤 電子添文 2024年1月改訂(第2版)

エレンタール®の組成(1袋(80g)/300kcal中)

(承認規格値より換算した)
エレンタール®配合内用剤インタビューフォーム2025年4月改訂(第10版) p.18

エレンタール®は基礎的医薬品として患者様を栄養面からサポートします

エレンタール®(80g当たり)の脂質、糖質、蛋白質(遊離アミノ酸)のエネルギー比率

石渡一夫編:静脈経腸栄養年鑑 2020-21,
株式会社ジェフコーポレーション, 2020: p.90-91より作図
エレンタール®及び国内で販売されている他社の医薬品扱いの経腸栄養剤の脂質含有量、脂質のエネルギー比率は以下の通りです。
  脂質含有量
(g/300kcal)
脂質のエネルギー比率
(%)
エレンタール® 0.5 1.5
国内で販売されている他社の医薬品扱いの経腸栄養剤 6.7~10.5 20~31.5
石渡一夫編:静脈経腸栄養年鑑 2020-21,
株式会社ジェフコーポレーション, 2020: p.90-91より作表

試験概要

対象 未治療で切除不能と診断された、進行膵癌患者57名(20歳以上:男性27名、女性30名)
[エレメンタルダイエット介入群(EI群):n=27、通常食群(ND群):n=30]
方法 単施設(岐阜大学医学部附属病院)、前向き、ランダム化比較試験
主要評価項目:全生存期間(OS)*検証的解析項目
副次評価項目:栄養状態の維持効果(治療開始2ヵ月時点)、化学療法の治療反応性、無増悪生存期間(PFS)、安全性(初回化学療法における有害事象)
患者背景 化学療法開始前の患者に対し、EI群またはND群に1:1の比率で無作為に割り付けられた。すべての患者は標準治療に基づき化学療法を受けた。
EI群:ED(エレンタール®)1~2包/日を2ヵ月以上摂取する。摂取時間、タイミング、1包の分割摂取は規定されていない。
ND群:栄養補助食品の追加は行われなかった。
解析計画 先行する後ろ向き研究において、1年生存率がEI群で約70%、ND群で約30%と報告されていることを踏まえ、α=0.05、β=0.20、脱落率10%を仮定し、各群30例と算出した。2群間の比較について、カテゴリ変数はFisherの正確確率検定、連続変数は対応のあるt検定またはMann‒WhitneyのU検定を用いた。OSおよびPFSの中央値はKaplan‒Meier法で推定し、log-rank検定を用いて比較した。すべての検定は両側検定とし、p値が0.05未満の場合を統計的に有意とした。
栄養指標の評価 血清タンパクマーカー:総タンパク(TP)、アルブミン(ALB)、トランスフェリン(Tf)、レチノール結合タンパク(RBP)、トランスサイレチン(TTR)/体組成分析/骨格筋面積(SMA)/脂肪組織面積(ATA)/骨格筋指数(SMI)/脂肪組織指数(ATI)/手指握力(HGS)を毎月測定した。また、全例に2週間ごとに栄養指導を行った。
*検証的な解析以外で得られたp値は名目上のp値とした。

結果

栄養状態の維持効果(治療開始2ヵ月時点)[副次評価項目]

治療開始時から治療2ヵ月までのEI群とND群の変化の比較では、BMIはEI群に比しND群で減少し、血清タンパクマーカーであるTP、ALB、Tf、TTRでもND群で減少がみられた。また、SMI、ATIでは両群間に有意差はみられなかったが、HGSはEI群とND群で差が認められた。
ND群:30例
EI群:27例
群間比較は連続変数についてMann‒WhitneyのU検定を用いて行い、結果は中央値(範囲)として示した。
*名目上のp値
Uemura S, et al.: Clinical Nutrition ESPEN 73 (2026) 103106

〈参考情報〉化学療法の治療反応性[副次評価項目]

初回化学療法の反応について、EI群はND群に対し全奏効率(ORR)および病勢コントロール率(DCR)でも高かった。
初回化学療法による治療効果と副作用の比較
CR:完全奏効、PR:部分奏効、SD:病勢安定、PD:病勢進行
群間比較において、カテゴリ変数は Fisherの正確確率検定を用いて解析し、連続変数はMann‒WhitneyのU検定を用いて解析した。

〈参考情報〉化学療法の生存期間に対する影響[主評価項目(検証的解析項目):全生存期間(OS)][副次評価項目:無増悪生存期間(PFS)]

全生存期間の中央値は、EI群で21.4ヵ月、ND群で12.8ヵ月であった(HR:0.55、95%CI:0.31~0.98、log-rank検定、p=0.038)。OSにおいてEI群で生存期間の延長がみられた。また、初回化学療法における無増悪生存期間(PFS)の中央値はEI群で9.5ヵ月、ND群で6.4ヵ月であった(HR:0.60、95%CI:0.35~1.05、log-rank検定、p=0.068
*名目上のp値
Uemura S, et al.: Clinical Nutrition ESPEN 73 (2026) 103106より改変

安全性[副次評価項目]

初回化学療法を行い発現した全グレード及びグレード3以上の有害事象は、EI群及びND群で以下の通りである。全グレードにおけるEI群の主な有害事象は好中球減少・末梢神経障害(85.2%)、貧血(81.5%)、ND群の主な有害事象は貧血(86.7%)、好中球減少(83.3%)、食欲不振(76.7%)であった。グレード3以上におけるEI群の主な有害事象は好中球減少(66.7%)、貧血(14.8%)、血小板減少・間質性肺炎・発熱性好中球減少症(11.1%)、ND群の主な有害事象は好中球減少(60.0%)、食欲不振(13.3%)、末梢神経障害(10.0%)であった。EDの投与による重篤例、死亡例はなく、下痢やその他の消化器症状によって投与が中止となった症例はなかった。安全性情報については最新の電子添文をご参照ください。
初回化学療法における有害事象
Uemura S, et al.: Clinical Nutrition ESPEN 73 (2026) 103106より改変

監修医コメント

本研究は、進行膵癌において化学療法開始早期からエレンタール®配合内用剤を併用することで、栄養状態の維持や筋力低下の抑制に寄与し、治療効果の向上や全生存期間の延長につながる可能性を示したランダム化比較試験です。膵癌では治療早期から栄養障害が進行しやすく、その重要性はこれまでも指摘されていましたが、栄養治療による予後への影響を前向きに検討した報告は限られていました。本研究結果は、栄養治療を支持療法としての役割に加え、治療戦略の一部として早期から位置づける重要性を示唆しています。

2026年7月作成

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