AIモデルを用いたスマートフォン・アプリによる大腸内視鏡検査前処置における便の状態評価

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Inaba A, et al.: Digestive Endoscopy 2024 doi: 10.1111/den.14827
【監修】国立がん研究センター東病院 消化管内視鏡科 稲場 淳 先生/新村 健介 先生
本邦では一般的には大腸内視鏡検査の前処置の際には、排便性状のスケールを参考に排便性状が水様透明な状態になったことを確認してから大腸内視鏡検査を実施している。排便性状の判定は患者自身または施設によっては医療従事者が行っているが、前処置に不慣れな患者や経験の浅い医療従事者では適切に判定できないことがある。また患者によっては自身の排便が見られることを恥ずかしく感じることがあり、医療従事者にとって患者の排便性状を判定することは業務負担になる。
これらの課題を解決するために、大腸内視鏡検査前処置時の排便性状を評価する人工知能(AI:Artificial Intelligence)が搭載されたスマートフォン専用アプリケーション(app)を株式会社Jmeesと開発した。

試験概要

目的

本app(現:ナースコープ)を前処置時に使用することで、適切な質を担保した大腸内視鏡検査の実施が可能であるかを検証すること。

方法

対象
当院にて、2021年5月~2022年3月の期間に前処置及び大腸内視鏡検査が実施された20歳以上の患者106名を対象とした。全周性または亜全周性の大腸癌を指摘されている患者、大腸切除歴のある患者(虫垂切除は除く)、ECOG-PS(EasternCooperative Oncology Group Performance Status)2以上の患者、重度の認知機能低下を認める患者は除外した。
前処置の方法
研究に参加した患者は、大腸内視鏡検査前日から低残渣食を摂取し、前日夜にピコスルファートナトリウム10mLを服用した。大腸内視鏡検査当日は、腸管洗浄液としてアスコルビン酸含有ポリエチレングリコール製剤(PEGA製剤)1~2Lまたはクエン酸マグネシウム(MC製剤)1.8Lを経口服用して前処置を実施した。
appの概要
appでは排便性状は、図Aのように4段階で評価され★1個、★2個、★2.5個、★3個で表示される。固形あるいは泥状の便は★1個、濁りのある水様便は★2個、固形あるいは泥状の便の直後に排泄された透明な水様便、あるいは排便回数が5回未満で排泄された透明な水様便は★2.5個、透明な水様便は★3個で表示される。
図A.
国立がん研究センター東病院 消化管内視鏡科 稲場 淳先生/新村 健介先生 ご提供
appの使用と大腸内視鏡検査までの流れ
appがダウンロードされたデバイスを患者に貸与し、大腸内視鏡検査当日の腸管洗浄液を内服した後の初回の排便時から排便画像を撮像するように指示した。排便画像の撮像の際には、使用済みのトイレットペーパーで排便が隠れて評価できなくなることを避けるために、トイレットペーパーを汚物入れに入れた後で排便画像を撮影するよう指示した。
前処置開始から3時間が経過した時点で、appの判定が★3個であれば大腸内視鏡検査を実施した。前処置開始から3時間が経過した時点でappの判定が★3個でない場合は医師の判断により追加処置(腸管洗浄液の追加内服または浣腸)を行い、appの判定が★3個になった場合には大腸内視鏡検査を実施した。これらの処置を許容できない患者や、追加処置を実施してもアプリの判定が★3個にならない患者に対しては医師の判断で大腸内視鏡検査を実施した。(図B
図B. 検査前処置の流れ.
国立がん研究センター東病院 消化管内視鏡科 稲場 淳先生/新村 健介先生 ご提供

●各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

評価項目

大腸内視鏡検査の質はBBPS(Boston Bowel Preparation Scale)を用いて評価した。
BBPSは大腸内視鏡検査を実施した内視鏡医によって評価された。
〈主要評価項目〉
appを適切に使用した上で大腸内視鏡検査が実施された患者※1のうち、BBPSが6以上であった患者の割合
〈副次評価項目〉
BBPSの平均値、腺腫検出率(ADR:Adenoma Detection Rate)、盲腸到達率、無病患者における平均抜去観察時間、腸管洗浄液内服開始から大腸内視鏡検査開始までに要した平均時間、appが★3個と判定するまでの平均時間、★3個、★2.5個、★2個、★1個と判定された患者の割合、研究に参加した患者、看護師を対象に実施したアンケート調査に基づくappの使いやすさ、有用性を評価した。
※1 患者が自分でappを起動し、自身の排便画像を撮影し、appの評価を確認できた場合と定義

解析方法

  • サンプルサイズについて、欧米のガイドライン1)2)に基づき、主要評価項目の閾値85%、期待値95%、片側α値2.5%、検出力90%とした際に、二項分布法に基づく必要な患者数は102例であったが、appを正常に使用できない患者数を考慮し、目標患者数を106例とした。
  • post-hoc統計検定では、主要評価項目の95%信頼区間(CI)の下限が85%を上回った場合、適切な腸管洗浄度が維持された大腸内視鏡検査が実施できたと判断された。
1)Rex DK, et al.: Am J Gastroenterol 2015; 110: 72-90
2)Kaminski MF, et al.: Endoscopy 2017; 49: 378-397

Limitation

  • 本研究は単施設での研究である。当院の前処置法にて使用された腸管洗浄液(PEGA製剤またはMC製剤)、当院備え付けの便器のみを用いた検証であり、他の腸管洗浄液による前処置法や当院以外の便器ではappの検証ができていない。
  • appの使用感に関するアンケートは、本研究に参加した患者、看護師が回答した結果であり、客観的な評価がなされていない可能性がある。

結果

患者背景

最終的に106例の患者が登録された。年齢中央値(範囲)は63歳(27~82歳)、性別は男性66例(62.3%)、女性40例(37.7%)、スマートフォンを所有している患者は103例(97.2%)であった。下剤を常用している患者は14例(13.2%)であり、腹部手術歴のある患者は45例(42.5%)であった。使用された腸管洗浄液はPEGA製剤が104例(98.1%)であり、MC製剤が2例(1.9%)であった。
登録された106例の患者のうち、appを適切に使用できなかった2例を除いた104例に対して最終解析を実施した。

主要評価項目

BBPS 6点以上で大腸内視鏡検査が実施された症例の割合は99.0%(103/104例,95%CI:94.8-100%)であった。
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Inaba A, et al.: Digestive Endoscopy 2024 doi: 10.1111/den.14827 より作図

副次評価項目

BBPSの平均値(標準偏差):8.6(0.8)、腺腫検出率:62.5%、盲腸到達率:100%、無病症例における平均内視鏡抜去時間(標準偏差):13.6分(6.0分)、腸管洗浄液内服開始から大腸内視鏡検査開始までの平均時間(標準偏差):3時間16分(54.4分)、腸管洗浄液内服開始からappの判定が★3個になるまでの平均時間(標準偏差):2時間18分(55.0分)であった。
最終的なappの判定結果別の患者の割合、及び判定結果別のBBPSの平均値は右図の通りであった。
appの判定結果別の患者の割合とBBPS平均値
Inaba A, et al.: Digestive Endoscopy 2024 doi: 10.1111/den.14827 より作図

appの使いやすさについてのアンケート結果

本研究に参加した患者104名に実施したアンケート調査の結果では、97%(101/104名)の患者がappを簡単に使用することができたと回答し、100%(104/104名)の患者が次回の大腸内視鏡検査時にもappを使用したいと回答した。
また本研究に参加した看護師15名に実施したアンケート調査の結果では、80%(12/15名)の看護師が普段の業務の中で前処置時に患者の排便性状を確認することに負担を感じると回答し、100%(15/15名)の看護師が大腸内視鏡検査前処置時にappを使用することで業務負担は軽減すると感じたと回答した。

監修者コメント

開発したappを使用して前処置を行った上で実施された大腸内視鏡検査において、腸管洗浄度の指標であるBBPSが6点以上であった割合は99.0%(103/104例)であり、設定された期待値(95%)を上回る結果であった。またADR、盲腸到達率、平均抜去観察時間は共にESGE(EuropeanSociety of Gastrointestinal Endoscopy)で設定されている目標値を上回る結果であった。以上のことから、開発したappを使用して前処置を実施した場合に適切な質を保った大腸内視鏡検査が実施できる可能性が示唆された。また患者や看護師を対象としたアンケート結果からは、多くの患者にとってappは簡単に使用できるものであり、またappによって医療従事者の前処置における業務負担が軽減されることが示唆された。臨床現場へのappの導入は、医療従事者の業務負担を軽減しつつ、質の保たれた大腸内視鏡検査の実施を可能にするツールとなりえるのではないかと考えられる。

2025年10月作成

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