食道や胃の手術を受けられる患者さんのための栄養管理のコツ
患者さま・ご家族のみなさま
このページは、エレンタール®配合内用剤またはエレンタール®P乳幼児用配合内用剤を服用される予定の患者さまを対象に、本剤を適正にご使用いただくための情報を提供しています。
あなたは、エレンタール®配合内用剤またはエレンタール®P乳幼児用配合内用剤を服用される予定の患者さまですか?
監修:公益財団法人 がん研究会有明病院 薬剤部・栄養管理部
手術前後で栄養状態は低下します
食道や胃の手術を行うと、食べ物を消化吸収する力が落ちたり、食欲増進ホルモンの分泌が低下するため食事量が減って、栄養状態が低下しやすくなります。
また、手術を実施する前も、検査などが原因で栄養状態が低下することがあるとも言われています。
栄養状態を維持することは重要です
手術の前に栄養状態が低下すると、術後合併症の発生する確率が高くなると言われています。
胃癌においては、手術後に筋肉量が減少した患者さんは、筋肉量が維持されている患者さんに比べて抗癌剤による治療の継続率が低いと言われています※。栄養状態を維持することは、治療を継続していく上でとても重要なことなのです。
weight loss in gastric cancer patients: a randomized controlled clinical trial. Ann Surg Oncol 23: 2928-2935, 2016
栄養状態を維持するコツ
術前、術後はお腹の働きが鈍くなるため、胃の働きを口で補うように、食べ方を注意することが大切です。
1.食べ物を細かくする働きが低下しているので、よく噛んで食べましょう。
1口30回が目安です。唾液には消化酵素が含まれるので、消化もしやすくなりますし、噛むと消化管の運動がよくなるとも言われています。
2.腸に少しずつ食べ物を送り出す働きが低下しているので、少量ずつ1日5-6回にわけ、30分以上時間をかけて食べましょう。
早く食べすぎると食べ物が一気に腸に入り、ダンピング症状※が起きやすくなります。また、一度にたくさん食べると術部の縫合付近に食べ物が停留するつかえ感や、残った胃に食べ物がたまるもたれ感が起きやすくなります。
※胃の手術後に起こる可能性のある症状で、「冷や汗」、「動悸」、「腹痛」、「下痢」、「低血糖症状」などがあります。
3.少量でも高エネルギー・高たんぱく質の食事をとりましょう。
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鮭のクリームシチュー
鮭はEPA、ビタミンD、たんぱく質が豊富です。牛乳によりカルシウムもとれ術後の回復によい食事です。
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フレンチトースト
フレンチトーストは栄養価の高い食事で、口当たりよく消化もいいので、少量で栄養補給ができます。
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肉味噌
ご飯や煮物に混ぜて、簡単にたんぱく質補給ができます。冷凍保存もできるため、まとめて作っておけば調理の手間を省けます。
4.それでも足りない栄養は栄養剤でバランスよく補いましょう。
手術前後は、食事だけで栄養状態を維持することがむずかしい場合もあります。 そういったときは栄養剤の力を借りることも必要になります。栄養剤には様々な種類がありますが、BCAA、グルタミン、アルギニン、といった特別なアミノ酸※を含んでいるものがおすすめです。
※BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン): 筋肉の維持・増強に重要、グルタミン:たんぱく質合成を促進、アルギニン:創傷治癒・成長ホルモン分泌を促進。
成分栄養剤(エレンタール®)はこんなお薬です
エレンタール®は消化酵素がなくても腸からの吸収が良い医薬品に分類される栄養剤です。
- 消化の必要がない成分なので、摂った栄養成分のほとんどが吸収されます。
- 食事では摂りにくいBCAAやグルタミンなどの特別なアミノ酸もバランスよく摂取できます。
- 消化を必要としない栄養素で構成された栄養剤のため、お腹に長く留まらず、腸への排出がすみやかです。
- 脂肪分が低く、食物繊維がゼロのため、術後の腸への負担が少なく、お腹が張りにくいです。
- 胃癌の手術後の体重減少を抑制した臨床データ※があります。
weight loss in gastric cancer patients: a randomized controlled clinical trial. Ann Surg Oncol 23: 2928-2935, 2016
監修:公益財団法人 がん研究会有明病院 薬剤部・栄養管理部
エレンタール®の基本的な調製方法
エレンタール®アルミ袋入り製剤の調製方法
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1.溶解ボトルに、水またはぬるま湯(30~40℃)を約250mL入れます。
※メモリは刻印のため、実際には透明になります。
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2.エレンタール®1包(80g)を入れます。
※フレーバーを入れる場合は、この時に入れます。
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3.ふたをしっかり閉めて、よく振って溶かします。
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4.約300mL(約1kcal/mL)の溶液となります。
※使用後の溶解ボトルはよく洗浄し、乾かして保管してください。
フレーバーの使い方
成分栄養剤80gに1袋(6g)を加えてご使用ください。お好みによりフレーバーの量は加減してください。
エレンタール® 飲み方の工夫 1
- エレンタール®の味などが苦手で飲むことが難しい方には、専用フレーバーがあります。主治医、または薬剤師、栄養士等に相談してください。
- 自分の好みに合わせたフレーバーを選んで、お好きな味をみつけましょう。味を変えながらエレンタール®を続けることがとても大事です。
専用フレーバーの種類
- フレーバーは、「フルーツトマト」、「オレンジ」、「パイナップル」、「青りんご」、「コーヒー」、「ヨーグルト」、「グレープフルーツ」、「さっぱり梅」、「マンゴー」、「コンソメ」の10種類の味があります。
- 専用フレーバーはエレンタール®を処方された病院や調剤薬局でもらうことができます。
エレンタール® 飲み方の工夫 2
「水で作れるゼリーミックス」の作り方(エレンタール®1包を調製する場合)
必ず1~6の順で調製してください。手順通り調製しないと固まりません。
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1.溶解ボトルに水150mLを入れます。
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2.「水で作れるゼリーミックス」を1袋入れます。
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3.ふたをして、よく振って混ぜてください。
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4.必ず、3で調製したゼリー液の中に、エレンタール®1包(80g)を入れます。
※フレーバーを入れる場合は、この時にいれます。
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5.しっかりふたを閉めて、50回を目安にしっかりと振ってください。
※ゼリー状に固まりかけたものを、過度に振り続けると固まらないことがありますのでご注意ください。
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6.混ぜ合わせた後、すぐにゼリー状に固まり始めますので、速やかにお好みの器に移してください。
(出来上がりは約200mLになります)
冷蔵庫で30分ほど冷やし、ゼリー状に固まったら早め(1日以内)に服用してください。
エレンタール®服用中に注意していただくこと
- 溶かしたらなるべく12時間以内に飲みましょう。
- 栄養成分が高濃度の液体なので、飲む速度が速いと腸がゴロゴロすることがあります。そのようなときは、必ず、1日かけてゆっくり飲みましょう。
- 細菌汚染などの衛生面から、1回で飲みきれなかった場合は必ず冷蔵庫で保管しましょう。また、冷蔵庫で保管しても調製から24時間を過ぎたものは破棄して、新しいエレンタール®を調製しましょう。
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Q. エレンタール®を服用する前に注意が必要な方はいるのでしょうか?
A.次のような方は必ず主治医に相談しましょう。
- 以前にエレンタール®を服用して発疹などが出たことがある方
- 糖尿病の方
- ステロイド剤を大量に服用されている方
- 妊娠3ヶ月以内、または妊娠を希望される方
- アミノ酸代謝に異常があると言われたことがある方
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Q. 味が濃くて飲みにくいです。
A.約2倍に薄めると、より飲みやすくなります。お好みのフレーバーで味を加減しましょう。
また水分量が増えるので水分補給代わりに飲むこともできます。 -
Q. 量が多くて飲めません。
A.一度に300mLを無理して飲まなくてもかまいません。1日かけて飲めるときに少しずつ飲んでみてください。その際、細菌が繁殖してはいけませんので、必ず冷蔵庫で保管しておきましょう。
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Q. ゆっくり飲んでいますが、飲むと腸がゴロゴロしてしまいます。
A.まずは少しずつ(約50mL:コップ1/3杯程度を15分くらいで)服用してみましょう。もしくはゼリーにして服用することをおすすめします(エレンタール® 飲み方の工夫2を参照)。
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Q. 飲んだら下痢をしてしまいました。
A.吸収がよい栄養剤ですが、時間をかけてゆっくり飲むことが大切です。飲みはじめの2~3日は、腸管の慣れが必要な場合があります。1日に何度も下痢が続くときは、医師又は看護師、薬剤師、栄養士に相談してください。
下痢を含め、嘔吐、腹痛などの症状に気づいたら早めに相談しましょう。
食事が基本です
栄養剤を飲んだからといって、食事をとらないことは決して望ましくありません。
食事の間に少しずつエレンタール®を飲みましょう。
食事やエレンタール®の飲み方について、またエレンタール®を飲んだ後にいつもと変わったこと(副作用)などがある方は遠慮なく、医師や看護師、薬剤師、栄養士に相談してください。
おわりに
「食道や胃を手術したら、全然食べられなくなるんでしょ?」と手術の前の患者さんから、よく質問を受けます。
以前は確かにそうでしたが、最近は手術が進歩しており、食事はあれもこれもダメと厳しい制限をしなくても、食べ方を工夫することで食べられる範囲が広がっています。
大切なことは、美味しく食べて筋肉量減少を防ぐことです。そのためには、患者さんが食べたいと思うものを食べることが一番です。
そうはいっても食欲や術後の後遺症は個人差が大きく食べられないと悩む方も少なくありません。
食事のみで栄養が補えない回復段階のときは、サポートとして、栄養剤を併用することも一案です。
そんな方でも時間とともに、少しずつ術後の新しい身体の状態になれていき、食べられるようになりますので、あせらず食事の練習を行いましょう。
食道や胃を手術した後、早くもとの生活に戻れますように。
それが私たち、医療従事者の願いです。
公益財団法人 がん研究会有明病院
薬剤部・栄養管理部