排便頻度と心血管疾患による死亡率との関連

Constipation/Cardiovascular Disease排便頻度と心血管疾患による死亡率との関連
【監修】熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器内科学 教授 辻田  賢一 先生

監修者コメント

大崎国保コホートを用いたHonkuraらの研究において、排便頻度が少ない人は、心血管疾患、脳卒中による死亡率が高いことが示唆されました1)。当研究は、排便頻度という定量的な便秘の指標と心血管疾患の死亡率との関係を調査した初めての研究であり、また、大規模集団を対象とした、13年にわたる前向き研究という点からも注目すべき研究です。
便秘の症候であるいきみが、循環器系に大きな影響を及ぼす可能性があることはこれまで示唆されてきて
おり、強いいきみが血圧の大きな変化を引き起こし心臓の負荷が増加すること2)、また、排便時のいきみに
伴う血圧の変化と心血管イベントの関係などが報告されています3,4)
心血管疾患患者に対する介入においては、便秘のコントロールも重要な課題であることに留意する必要があると考えます。

1)Honkura K, et al.: Atherosclerosis 2016; 246: 251-256  2)Imai M, et al.: Jpn J Nurs Art Sci 2011; 10: 111-120
3)Ishiyama Y, et al.: J Clin Hypertens( Greenwich) 2019; 21: 421-425  4)Sikirov BA: Med Hypotheses 1990; 32: 231-233

Honkuraらは、大崎国保コホート研究※1のデータを用いて、便秘の定量的な指標である排便頻度と心血管疾患による死亡率との関連について調査しました1)。その結果、低い排便頻度は、心血管疾患による死亡リスクと関連することが示されました。
1)Honkura K, et al.: Atherosclerosis 2016; 246: 251-256
※1:1994年10~12月に宮城県大崎保健所管内の14の自治体に居住する40歳~79歳までの国民健康保険加入者全員(54,996例)を対象として、排便頻度を含む生活習慣に関する質問票調査を実施し、そのうち52,029例(94.6%)から有効回答を得た研究。

対象・方法

大崎コホート研究にて有効回答を得た52,029例から、国民健康保険退会者、心筋梗塞、脳卒中、癌の既往のある者、排便頻度のデータが欠損している者を除外した45,112例(男性:21,669例、女性:23,443例)を、過去1年間の排便頻度によって、1日1回以上群(36,158例)、2~3日に1回群(8,119例)、4日に1回以下群(835例)の3群に分け、排便頻度と心血管疾患、脳卒中による死亡率との関連を、1995年1月から2008年3月までフォローアップして調査した。
Cox比例ハザード回帰分析を用いて、排便頻度の3つのカテゴリー(1日1回以上、2~3日に1回、4日に1回以下)に従って、心血管疾患による死亡率のハザード比(HR2)※2および95%信頼区間を推定した。排便頻度カテゴリー間のp値は尤度比検定を用いた。
※2:年齢、性別、BMI、高血圧有無、糖尿病有無、喫煙状況、飲酒状況、学歴、1日当たりの歩行時間、就業状況、ストレス認知度、婚姻状況、果物および野菜の摂取量にて調整。

結果

全ての心血管疾患による死亡率を1日1回以上の排便があった群と比較したハザード比は、2~3日に1回の排便群で1.21、4日に1回以下の排便群で1.39であり、排便頻度が2~3日に1回や4日に1回以下のハザード比が有意に高かった(2~3日に1回:p<0.001、4日に1回以下:p<0.05、Cox比例ハザード回帰分析)。
脳卒中死亡率についてのハザード比は、2~3日に1回の排便群で1.29、4日に1回以下の排便群で1.90であり、脳卒中死亡率も排便頻度が2~3日に1回や4日に1回以下のハザード比が有意に高かった(2~3日に1回:p<0.01、4日に1回以下:p<0.001、Cox比例ハザード回帰分析)。
  • ハザード比グラフ/死亡数・ハザード比/1日に1回以上群(n=36,158)・2~3日に1回群 (n=8,119)・4日に1回以下群 (n=835)

    排便頻度別の心血管疾患による死亡率のハザード比

  • ハザード比グラフ/死亡数・ハザード比/1日に1回以上群(n=36,158)・2~3日に1回群 (n=8,119)・4日に1回以下群 (n=835)

    排便頻度別の脳卒中による死亡率のハザード比

1)Honkura K, et al.: Atherosclerosis 2016; 246: 251-256より作図

慢性便秘症は、生存率に影響する可能性があります1)
~便秘症の有無による生存率の比較~【海外データ】

米国で3,933例を対象に行われた、機能性消化管障害の有無と生存率との関連を調べた調査では、慢性便秘症を有する人は、そうでない人よりも生存率が低いという結果が得られました。
対象・方法 1988~1993年に、米国ミネソタ州オルムステッド郡に住む20歳以上の5,262例にIBS、慢性便秘症、慢性下痢症、ディスペプシア、及び腹痛の診断のため、消化器症状についてアンケート調査(BDQ:the original Bowel Disease Questionnaire)を実施した。アンケートに回答した4,176例より不適格者を除いた3,933例を対象として、2008年までの15年間、生存状況を行政の死亡記録によって確認し、機能性消化管障害と生存率の関係を調査した。
結果 各機能性消化管障害の有無と生存率の関係を、単変量及び調整ハザード比を用いた比例ハザードモデルにて評価したところ、IBS(HR=1.06,95%CI:0.86‒1.32)、慢性下痢症(HR=1.03, 95%CI:0.90‒1.19)、ディスペプシア(HR=1.08, 95%CI:0.58‒2.02)、腹痛(HR=1.09, 95%CI:0.92‒1.30)については関連が認められなかったが、慢性便秘症については関連が認められ、慢性便秘症患者の生存率は、慢性便秘症ではない人に比べ生存率が低かった(HR=1.23, 95%CI:1.07‒1.42、チャールソン併存疾患指数による調整後のHR=1.19, 95%CI:1.03‒1.37)。Kaplan-Meier推定による調査開始から10年経過時の生存率は、慢性便秘症あり:73%(95%CI:69-76)、慢性便秘症なし:85%(95%CI:84-86)であった。
グラフ/生存率(%)・調査以降の年数/当研究では、過去1年間において、ⅰ)排便回数が週に3回未満、ⅱ)排便時の25%以上にいきみがある、ⅲ)排便の25%以上に硬便あるいは兎糞状便がある、ⅳ)排便の25%以上に残便感がある、以上ⅰ)~ⅳ)の症状のうち2つ以上該当する者(IBSは除外)を機能性便秘症とし、622例が該当した。

慢性便秘症と生存率

1)Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832

排便による収縮期血圧の変化
高齢者は、排便時の「いきみ」によって血圧が上昇しやすい

高齢者は、排便時の「いきみ」によって血圧が上昇しやすい
グラフ/収縮期血圧・30分前/直前/排便時/30分後/60分後
対象・方法 療養型病棟に入院中の患者と外来通院患者から76~98歳の被験者22例、比較対照群として19~26歳の若年健常者10例を選択し、夏季4ヵ月間に、非観血的携帯型自動血圧計を使用して、オシロメトリック法により30分間隔で24時間血圧を測定した。
結果 排便による収縮期血圧の変動は、高齢者では、排便直前133.6±19.5mmHg、排便時147.6±20.5mmHg、排便30分後143.4±17.4mmHg、若年者では、排便直前118.0±20.4mmHg、排便時116.6±18.5mmHg、排便30分後111.6±19.1mmHgであり、排便時と排便30分後は、高齢者は若年者に比べ有意な高値を示した(いずれもp<0.05、t検定)
赤澤寿美ほか:自律神経.37(3):431-439,2000.より作図

2024年10月作成

便秘診療のコツ

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