便秘は急性心不全患者の心不全再入院リスクを高める可能性があります

Constipation/Cardiovascular Disease便秘は急性心不全患者の心不全再入院リスクを高める可能性があります。
1)Namiuchi S, et al.: ESC Heart Failure 2024; 11: 819-825 doi: 10.1002/ehf2.14650
【監修】仙台市医療センター 仙台オープン病院 循環器内科 主任部長 浪打 成人 先生

監修者コメント

私達の検討では心不全患者の心不全による再入院と便秘とに強い関連が認められました。
 便秘が循環器系疾患患者の予後を悪化させるとすれば、そのメカニズムとして現在二つの可能性が考えられています。
一つは便秘による腸内細菌叢の変化がアテローム性動脈硬化を促進するという可能性、もう一つは排便困難時のいきみにより引き起こされる血圧上昇が悪影響となる可能性です。
 特にいきみは一時的に血圧上昇を引き起こし、うっ血性心不全・不整脈・急性冠症候群・大動脈解離などの心血管イベントの誘引となりうるとされています4)。『高血圧治療ガイドライン2019』では、「便秘については脳心血管病発症や慢性腎不全に関して報告があり、高血圧との関係では、便秘に伴ういきみは血圧を上昇させるので、便秘予防の指導や、必要な場合には緩下剤の投与を行う」ことが推奨されています5)
 便秘と心不全を含めた循環器系疾患との関連について理解を深めるには、今後更なる研究が必要ですが、便秘の改善・排便マネジメントは心不全患者の予後を改善するための重要な戦略となりうると考えます。

4)Ishiyama Y, et al.: J Clin Hypertents( Greenwich) 2019; 21: 421-425  5)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編, 高血圧治療ガイドライン2019, 日本高血圧学会, 2019, p70, 第4章生活習慣の修正, 7.その他の生活習慣の修正

過敏性腸症候群・慢性下痢・ディスペプシア・腹痛などを含む機能的消化管疾患の中で、慢性便秘だけが高い死亡率を示していたという報告があります2)。また便秘状態にある人では冠動脈疾患や虚血性脳卒中の発症リスクが高いという報告もされています3)。慢性便秘症は循環器疾患患者でもよくみられますが、これまで心不全患者の予後に対する便秘の影響は十分検討されてきませんでした。本研究では便秘と心不全患者の予後との関連を、死亡と心不全再入院に焦点をあてて調査しました。
その結果、便秘状態にある心不全患者では心不全再入院リスクが高くなることがわかりました。
2)Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105: 822-832  3)Sumida K, et al.: Atherosclerosis 2019: 281: 114-120

対象・方法

2020年12月~2022年12月に急性心不全により仙台市医療センター仙台オープン病院に入院し、生存退院した患者397症例(年齢81±13歳、男性:215例、女性:182例)を、便秘の有無により二群にわけ(便秘あり群:128例、便秘なし群:269例)、死亡率と心不全再入院率を後方視的に調査した。
下剤を定期的に使用している、あるいはICD-10により便秘の診断となっている患者を便秘ありと定義した。

結果

経過観察期間(中央値:173日)で35症例が死亡、74症例が心不全により再入院した。Kaplan-Meier解析で便秘あり群では便秘なし群に比較して、死亡が多い傾向にあり、心不全再入院は有意に多かった。14変数によるスコアマッチング後の57ペアでの検討でも心不全再入院は有意に多いという結果だった(Log-rank:p=0.0027)。Cox比例ハザード解析の同変数での補正モデルにおいても、便秘あり群では便秘なし群に比較して、死亡はハザード比1.76(95%CI:0.61-5.06, p=0.30)と有意差はなかったが、心不全再入院はハザード比2.61(95%CI:1.38-4.94,p=0.0032)と心不全入院リスクは有意に高かった。
  • 全死亡率グラフ/便秘あり群・便秘なし群

    Follow-up(days)

    1)Namiuchi S, et al.: ESC Heart Failure 2024; 11: 819-825 doi: 10.1002/ehf2.14650
  • 心不全による再入院率グラフ/便秘あり群・便秘なし群

    Follow-up(days)

    1)Namiuchi S, et al.: ESC Heart Failure 2024; 11: 819-825 doi: 10.1002/ehf2.14650
補正モデルでは14変数(年齢、性別、退院時BMI、自立歩行、HFRスコア、心不全入院既往、脳卒中入院既往、心房細動、NT-proBNP濃度、ヘモグロビン濃度、血中尿素窒素濃度、eGFR、アルブミン濃度、左室駆出分画)を使用した。

慢性便秘症は、生存率に影響する可能性があります1)
~便秘症の有無による生存率の比較~【海外データ】

米国で3,933例を対象に行われた、機能性消化管障害の有無と生存率との関連を調べた調査では、慢性便秘症を有する人は、そうでない人よりも生存率が低いという結果が得られました。
対象・方法 1988~1993年に、米国ミネソタ州オルムステッド郡に住む20歳以上の5,262例にIBS、慢性便秘症、慢性下痢症、ディスペプシア、及び腹痛の診断のため、消化器症状についてアンケート調査(BDQ:the original Bowel Disease Questionnaire)を実施した。アンケートに回答した4,176例より不適格者を除いた3,933例を対象として、2008年までの15年間、生存状況を行政の死亡記録によって確認し、機能性消化管障害と生存率の関係を調査した。
結果 各機能性消化管障害の有無と生存率の関係を、単変量及び調整ハザード比を用いた比例ハザードモデルにて評価したところ、IBS(HR=1.06,95%CI:0.86‒1.32)、慢性下痢症(HR=1.03, 95%CI:0.90‒1.19)、ディスペプシア(HR=1.08, 95%CI:0.58‒2.02)、腹痛(HR=1.09, 95%CI:0.92‒1.30)については関連が認められなかったが、慢性便秘症については関連が認められ、慢性便秘症患者の生存率は、慢性便秘症ではない人に比べ生存率が低かった(HR=1.23, 95%CI:1.07‒1.42、チャールソン併存疾患指数による調整後のHR=1.19, 95%CI:1.03‒1.37)。Kaplan-Meier推定による調査開始から10年経過時の生存率は、慢性便秘症あり:73%(95%CI:69-76)、慢性便秘症なし:85%(95%CI:84-86)であった。
グラフ/生存率(%)・調査以降の年数/当研究では、過去1年間において、ⅰ)排便回数が週に3回未満、ⅱ)排便時の25%以上にいきみがある、ⅲ)排便の25%以上に硬便あるいは兎糞状便がある、ⅳ)排便の25%以上に残便感がある、以上ⅰ)~ⅳ)の症状のうち2つ以上該当する者(IBSは除外)を機能性便秘症とし、622例が該当した。

慢性便秘症と生存率

1)Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832

排便による収縮期血圧の変化
高齢者は、排便時の「いきみ」によって血圧が上昇しやすい

高齢者は、排便時の「いきみ」によって血圧が上昇しやすい
グラフ/収縮期血圧・30分前/直前/排便時/30分後/60分後
対象・方法 療養型病棟に入院中の患者と外来通院患者から76~98歳の被験者22例、比較対照群として19~26歳の若年健常者10例を選択し、夏季4ヵ月間に、非観血的携帯型自動血圧計を使用して、オシロメトリック法により30分間隔で24時間血圧を測定した。
結果 排便による収縮期血圧の変動は、高齢者では、排便直前133.6±19.5mmHg、排便時147.6±20.5mmHg、排便30分後143.4±17.4mmHg、若年者では、排便直前118.0±20.4mmHg、排便時116.6±18.5mmHg、排便30分後111.6±19.1mmHgであり、排便時と排便30分後は、高齢者は若年者に比べ有意な高値を示した(いずれもp<0.05、t検定)
赤澤寿美ほか:自律神経.37(3):431-439,2000.より作図

2024年10月作成

便秘診療のコツ

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