監修者コメント
私達の検討では心不全患者の心不全による再入院と便秘とに強い関連が認められました。
便秘が循環器系疾患患者の予後を悪化させるとすれば、そのメカニズムとして現在二つの可能性が考えられています。
一つは便秘による腸内細菌叢の変化がアテローム性動脈硬化を促進するという可能性、もう一つは排便困難時のいきみにより引き起こされる血圧上昇が悪影響となる可能性です。
特にいきみは一時的に血圧上昇を引き起こし、うっ血性心不全・不整脈・急性冠症候群・大動脈解離などの心血管イベントの誘引となりうるとされています4)。『高血圧治療ガイドライン2019』では、「便秘については脳心血管病発症や慢性腎不全に関して報告があり、高血圧との関係では、便秘に伴ういきみは血圧を上昇させるので、便秘予防の指導や、必要な場合には緩下剤の投与を行う」ことが推奨されています5)。
便秘と心不全を含めた循環器系疾患との関連について理解を深めるには、今後更なる研究が必要ですが、便秘の改善・排便マネジメントは心不全患者の予後を改善するための重要な戦略となりうると考えます。
4)Ishiyama Y, et al.: J Clin Hypertents( Greenwich) 2019; 21: 421-425 5)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編, 高血圧治療ガイドライン2019, 日本高血圧学会, 2019, p70, 第4章生活習慣の修正, 7.その他の生活習慣の修正
Follow-up(days)
Follow-up(days)
対象・方法 | 1988~1993年に、米国ミネソタ州オルムステッド郡に住む20歳以上の5,262例にIBS、慢性便秘症、慢性下痢症、ディスペプシア、及び腹痛の診断のため、消化器症状についてアンケート調査(BDQ:the original Bowel Disease Questionnaire)を実施した。アンケートに回答した4,176例より不適格者を除いた3,933例を対象として、2008年までの15年間、生存状況を行政の死亡記録によって確認し、機能性消化管障害と生存率の関係を調査した。 |
結果 | 各機能性消化管障害の有無と生存率の関係を、単変量及び調整ハザード比を用いた比例ハザードモデルにて評価したところ、IBS(HR=1.06,95%CI:0.86‒1.32)、慢性下痢症(HR=1.03, 95%CI:0.90‒1.19)、ディスペプシア(HR=1.08, 95%CI:0.58‒2.02)、腹痛(HR=1.09, 95%CI:0.92‒1.30)については関連が認められなかったが、慢性便秘症については関連が認められ、慢性便秘症患者の生存率は、慢性便秘症ではない人に比べ生存率が低かった(HR=1.23, 95%CI:1.07‒1.42、チャールソン併存疾患指数による調整後のHR=1.19, 95%CI:1.03‒1.37)。Kaplan-Meier推定による調査開始から10年経過時の生存率は、慢性便秘症あり:73%(95%CI:69-76)、慢性便秘症なし:85%(95%CI:84-86)であった。 |
慢性便秘症と生存率
対象・方法 | 療養型病棟に入院中の患者と外来通院患者から76~98歳の被験者22例、比較対照群として19~26歳の若年健常者10例を選択し、夏季4ヵ月間に、非観血的携帯型自動血圧計を使用して、オシロメトリック法により30分間隔で24時間血圧を測定した。 |
結果 | 排便による収縮期血圧の変動は、高齢者では、排便直前133.6±19.5mmHg、排便時147.6±20.5mmHg、排便30分後143.4±17.4mmHg、若年者では、排便直前118.0±20.4mmHg、排便時116.6±18.5mmHg、排便30分後111.6±19.1mmHgであり、排便時と排便30分後は、高齢者は若年者に比べ有意な高値を示した(いずれもp<0.05、t検定) |
2024年10月作成
【対談】精神科における便秘症診療を考える
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授 中島 淳 先生/医療法人 静心会 桶狭間病院 藤田こころケアセンター 病院長 藤田 潔 先生
精神疾患と便秘の関係性
不適切な排便コントロールの影響
【監修】看護師/医療経営コンサルタント 田中 智恵子 先生
統合失調症患者の下剤使用開始に関連する因子の検討:レトロスペクティブコホート研究
【監修】獨協医科大学 精神神経医学講座 講師 川俣 安史 先生
精神科外来患者における便秘症の有病率とリスク因子の検討
【監修】医療法人社団 心緑会 小石川メンタルクリニック 院長 山田 浩樹先生
信頼関係を築いて便秘の「思い込み」を解く
トイレweek2024(EAファーマ協賛)特設ページにて便秘の専門医、津田桃子先生のインタビュー記事を公開
心血管イベントにおける排便管理の重要性
【監修】自治医科大学内科学講座 循環器内科学部門 教授 苅尾 七臣 先生
排便頻度と心血管疾患による死亡率との関連
【監修】熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器内科学 教授 辻田 賢一 先生
慢性便秘症診療に直腸エコー観察は有用か? 【2】直腸エコー観察に基づいた治療アルゴリズム
【監修】横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授中島 淳 先生
慢性便秘症診療に直腸エコー観察は有用か? 【1】病態機能評価における有用性
【監修】横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授中島 淳 先生
「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」のポイント グーフィス®とモビコール®の紹介を含めて
【監修】九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学(第三内科)准教授
伊原 栄吉 先生
「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」におけるグーフィスⓇの位置付け
【監修】横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授
中島 淳 先生
治療継続のコツ 治療段階を患者さんと共有する
医師と便秘症患者さんとの間には治療への意識の差がある。便秘の不快症状を訴える患者さんへの正しい治療の啓発が求められている。
整形外科における便秘について
ロコモティブシンドロームは大きな活動性低下を招き、便秘を誘発する可能性がある。また、関節症の疼痛治療においては副作用としての便秘を予防する必要がある。
緩和ケアにおける便秘治療のポイントとは
緩和ケアで起こる便秘の原因は様々であり、体力の温存の観点からも排便コントロールが難しく、QOLに大きな影響を与える。身体状態、食事摂取量や便秘の症状に合わせた便秘治療が求められる。
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