「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」発刊を受けて

【監修】国際医療福祉大学 消化器内科統括教授/熱海病院 病院長 中島 淳 先生
『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』が、このたび刊行された。前回の2015年版ガイドラインから10年振りの改訂となる。
高齢者の薬物療法において遭遇する頻度の高い疾患・病態として、消化器領域では2015年版ガイドラインと同様に、加齢に伴い増加するGERDと便秘が取り上げられている。便秘については、治療に広く用いられている酸化マグネシウム製剤と高齢者で服用している患者の多いPPIとの併用についての注意喚起がなされた他、この10年間に新規作用機序をもつ便秘症治療薬が次々に上市されていることを踏まえたアップデート等がなされている。新規便秘症治療薬は成人でのエビデンスの質、推奨度が高いとする一方で、高齢者のみでの無作為化比較試験が行われておらず、また高齢者・フレイルでは個人差が大きいことから、有害事象の発現に留意し、個々に応じた薬剤選択や用量調節を行うことを喚起している。
当資材では、2025年版ガイドラインの便秘に関するCQを紹介した。参考にしていただきたい。

『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』Ⅳ 領域別指針 15 便秘

1. CQ:便秘の原因となる薬物にはどのようなものがあるか?

抗コリン薬[ムスカリン受容体拮抗薬、抗パーキンソン病薬、三環系抗うつ薬、定型抗精神病薬、H1受容体拮抗薬(第一世代)など]は、過活動膀胱やパーキンソン病、うつ病、蕁麻疹などの疾患の治療薬として使われるが、認知機能低下やせん妄のリスク、過鎮静、口腔乾燥、便秘、尿排出症状の悪化などの有害事象をもたらす。したがって、これらの薬剤は可能な限り使用を控えることを推奨する。代替薬がある場合は、代替薬に変更する。代替薬がない場合は、必要最小限の使用にとどめる。(エビデンスレベル:B、推奨度:1、合意率:100%)
【各ステージにおける便秘症の憂慮】
①向精神薬の副作用、ストレス、運動不足等により腸管運動が低下し、便秘症が多発する4~6)
②便秘症状を訴えられないことによる治療開始の遅延、刺激性下剤の連用・摘便、浣腸処置による患者や看護スタッフの負担が増加する(海外データを含む)8~11)
③上記治療による便秘症の難治化、便秘症自体が精神疾患を更に悪化させる可能性がある(海外データを含む)12),13)
精神疾患患者を取り巻く様々な要因で、便秘症状悪化のサイクルに陥り、イレウスの発生に繋がる恐れがある

2. CQ:酸化マグネシウムは安全か?

酸化マグネシウムは忍容性の高い浸透圧下剤であるが、高齢者では腎機能低下により高Mg血症のリスクが増大する。用法用量を厳守し、かつ低用量から始めることを推奨する。開始後は血清Mg値をモニターする。血清Mg値上昇や高Mg血症による症状出現時は使用を中止し、他の作用機序の緩下剤への変更を検討する。なお、酸化マグネシウムは活性型ビタミンD3との併用で高Mg血症を起こしたり、PPIなどの酸分泌抑制薬との併用で酸化マグネシウムの効果が低下するなど、多くの併用注意薬があることにも留意して使用する。(エビデンスレベル:B、推奨度:1、合意率:100%)

薬物リスト

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

特に慎重な投与を要する薬物のリストを示す表
[1]齊藤 昇: 高齢入院患者の血清マグネシウム値への腎機能障害と酸化マグネシウム投与の影響. 日老医誌 2011; 48: 263-70.
[2]Kinnunen O, Salokannel J: Constipation in elderly long-stay patients: its treatment by magnesium hydroxide and bulk-laxative. Ann Clin Res 1987; 19: 321-3.
[3]Mori S, Tomita T, Fujimura K, et al: A randomized double-blind placebo-controlled trial on the effect of Magnesium Oxide in patients with chronic constipation. J Neurogastroenterol Motil 2019; 25: 563-75.

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。
日本老年医学会 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン作成委員会 編, 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025, メジカルビュー社, 2025, p.129より

3. CQ:刺激性下剤は安全か?

刺激性下剤は数時間で効果が現れ、排便回数や便の硬さなど排便状態を改善させるが、一方で腹痛や水様下痢便による電解質異常・脱水などの有害事象の発生頻度も高い。長期連用による耐性や習慣性を避けるため、必要最小限の使用にとどめ、できるだけ頓用または短期間での投与とすることを推奨する。(エビデンスレベル:C、推奨度:1、合意率:100%)

4. CQ:上皮機能変容薬・胆汁酸トランスポーター阻害薬は安全か?

上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)や胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)は、高齢者にも比較的安全に使用できる薬剤である。主な副作用として、ルビプロストンでは下痢・悪心、リナクロチドでは下痢、エロビキシバットでは腹痛・下痢が報告されている。投与法(ぞれぞれ食後・食前・食前)を厳守し、少量から投与を開始する。(エビデンスレベル:B、推奨度:1、合意率:100%)
日本老年医学会 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン作成委員会 編, 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025, メジカルビュー社, 2025, p.128-129より

解説(抜粋)

胆汁酸トランスポーター阻害薬であるエロビキシバットについても国内外でRCTが行われ、有効性・安全性が示されている[1,2]。エロビキシバットは、回腸末端部での胆汁酸の再吸収を抑制することで大腸管腔内に流入する胆汁酸の量を増加させ、管腔内へ水分を分泌させるとともに、胆汁酸が大腸粘膜に直接作用して蠕動運動を促進させる。この2つの作用により便秘を改善させる。近年、慢性便秘症では便意が低下している(直腸感覚閾値が高くなっている)ことが報告されているが[3]、60歳以上を対象としたRCTにおいて、エロビキシバットが便意を有意に改善した報告[4]がある。有害事象として、腹痛や下痢が挙げられる。腸閉塞には禁忌である。ルビプロストンやリナクロチドと異なり、併用により作用が減弱する胆汁酸製剤やコレスチラミン、作用が増強するジゴキシンやダビガトランなどの併用注意薬がある。なお、胆汁酸は食事の刺激で分泌されるため、食前20~30分前の内服が推奨されている。

日本老年医学会 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン作成委員会 編, 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025, メジカルビュー社, 2025, p.131より

[1]Chey WD, Camilleri M, Chang L, et al: A randomized placebo-controlled phase IIb trial of a3309, a bile acid transporter inhibitor, for chronic idiopathic constipation. Am J Gastroenterol 2011; 106: 1803-12.
[2]Nakajima A, Seki M, Taniguchi S, et al: Safety and efficacy of elobixibat for chronic constipation: results from a randomised, doubleblind,placebo-controlled, phase 3 trial and an open-label, single-arm, phase 3 trial. Lancet Gastroenterol Hepatol 2018; 3: 537-47.
[3]Ohkubo H, Takatsu T, Yoshihara T, et al: Difference in defecation desire between patients with and without chronic constipation: A large-scale Internet survey. Clin Transl Gastroenterol 2020; 11: e00230.
[4]Manabe N, Umeyama M, Ishizaki S, et al: Elobixibat improves rectal sensation in patients with chronic constipation aged > 60years: a randomised placebo-controlled study. BMJ Open Gastroenterol 2023; 10: e001257.

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日本老年医学会 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン作成委員会 編, 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025, メジカルビュー社, 2025, p.10より作成

高齢者は若年者に比して、結腸通過時間の有意な延長が認められました(p=0.0008、重回帰分析)。

グラフ/縦軸が平均結腸通過時間、横軸が高齢者、若年者

高齢者と若年者での結腸通過時間

Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159より作成
表/高齢者および若年者における消化管運動の評価結果と年齢、性差、BMIおよび喫煙が消化管運動に与える影響
対象 デンマークの健康高齢者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢81歳[74-85歳]、平均body mass index 25.0kg/m2[21.6-29.7kg/m2])と健康若年者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢24歳[20-30歳]、平均body mass index 22.4kg/m2[18.9-26.5kg/m2 ])
方法 朝に、ラベルマーカーを含む1600-kJのリキッドおよび固形食(80gのパン、120gのオムレツ、200gの水)を10分で摂取後、ラベルマーカーが小腸から検出されなくなるまで、30分間隔でガンマカメラにて確認した。翌日からは、24時間毎にラベルマーカーが結腸から排出するまでガンマカメラで確認し、結腸通過時間を測定した。なお、水に111In-DTPAを加え、99mTcはオムレツに加え、ラベルマーカーとした。
Limitation 当試験のlimitationとして、身体活動レベル、食習慣、心理的要因のばらつきが、結果に影響を与えた可能性があること、若年女性の胃排出評価が月経周期を考慮した時期に行われなかったことなどが挙げられる。
Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159

2025年9月作成

便秘診療のコツ

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