緩和ケアにおける便秘治療のポイントとは

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監修:聖隷三方原病院 ホスピス部長 今井 堅吾 先生

目次

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    ポイント

    • 緩和ケアで起こる便秘の原因は様々であり、QOLに大きな影響を与える可能性がある
    • 患者さんの身体状態、食事摂取量や便秘の症状に合わせた便秘治療が求められる
    • 便秘治療のゴールは、患者さんとの話し合い、多職種との連携によって設定することが重要

    緩和ケアで起こる便秘は様々な原因が複合的に作用し、通常の生活指導や薬剤治療では改善できない難治性の便秘です。体力の温存の観点からも排便コントロールの難しさがあり、QOLに大きな影響を与えると考えられます。患者さんと話し合いながら、患者さんが満足する治療ゴールを探っていくものと考えています。

    緩和ケアで起こる便秘の原因は様々であり、QOLに大きな影響を与える可能性がある

    緩和ケアにおける便秘の位置づけ

    緩和ケアで起こる便秘の原因は、日常生活動作(ADL)の低下や水分や食事摂取の低下に加えて、薬剤の副作用や腫瘍による器質的異常など様々です。多くの場合、これらの原因が複合的に作用しており、通常の生活指導や薬剤治療では改善しない難治性の便秘となることが多くあります。
    便秘は患者さんのQOLを大きく低下させるため、便秘治療の重要性は人生の最期まで変わりません1)。ひどい便秘の場合は、食欲不振、吐き気、腹部膨満感といった症状も出ますし、患者さんの衰弱が進行すると、排泄行為そのものの負担が大きくなります。一方で、自力で排泄できないことで、人としての尊厳が著しく損なわれたと感じる患者さんは少なくありません。このため、患者さんの中には低酸素状態になってもトイレへ移動し自力で排便しようとする方もいますので、便秘は最期まで患者さんのQOLに大きな影響を与えると考えています。

    患者さんの身体状態、食事摂取量や便秘の症状に合わせた便秘治療が求められる

    患者さんの食事摂取と便秘治療

    食事があまり摂れない患者さんは大蠕動が起こりにくく、排便をうまく行うことができません。しかし、ほとんど食べていない患者さんでも便は形成されるため、便秘が続くと直腸内における宿便の貯留、ガスによる腸管内圧の上昇などにより、便意が生じます。便意はあるが、排便ができない。そのために不快な症状となります。
    終末期では経口摂取や内服が困難な場合が多いですが、少量でも食事摂取が可能であれば、不快感を悪化させず食事摂取を保つことを目的に下剤の使用を検討します。下剤を内服している患者さんには、他の内服薬をすべて止めたとしても、下剤だけは可能な範囲で最期まで続けています。また、直腸排泄機能が障害されていて、宿便による不快感が疑われる場合は、坐薬、浣腸、摘便などを組み合わせて排便コントロールを行っています。

    がん患者さんの排便コントロール

    がん患者さんに多いのは、大腸がんなどによる腸管の通過障害やがん性腹膜炎による腸蠕動運動異常などのがんの直接的影響による便秘、ADL低下や飲食の低下などによるがんの二次的影響による便秘、化学療法薬やオピオイドなどの薬剤性便秘です。特にがん疼痛治療に使用される鎮痛剤オピオイドは、高頻度で便秘が発症するため対策が必要となります。加えて、緩和ケアの患者さんはオピオイドを服用する前から慢性便秘症であることが多く、こうした患者さんにオピオイドを使用すると、難治性の便秘になる可能性があります2)
    これまで緩和ケアにおいては、慢性便秘症の病態がそれほど注目されていませんでした。しかし、緩和ケアを受けている患者さん達の多くが薬剤や他の便秘の原因に対する対応をしても、便秘が依然として難治性で改善しないのをみると、がん患者さんの便秘の根底にも機能性便秘症の病態があり、そちらへの対応の重要性を強く感じます。

    緩和ケアにおける便秘の原因

    オピオイド誘発性便秘については経口治療薬の末梢性μオピオイド受容体拮抗薬がありますので、消化管閉塞(イレウス)かと思われるような重症な便秘は減少しました。がん特有の排便障害として、がんによる消化管の癒着や狭窄による不完全消化管閉塞(サブイレウス)があると、頑固な便秘と水様性下痢を繰り返す症状として認める場合があり、鑑別が必要です。また、骨盤腔内手術後や慢性便秘症では、しばしば臓器脱の一種である直腸瘤を認めます。これは、排便時のみ直腸が膣後壁に入り込んでポケット状に突出するもので、しばしば難治性の便排出障害の原因となります。さらに、裂肛(いわゆる切れ痔)を見逃さないことも大切です。裂肛の原因の多くは慢性便秘症により、硬い便が肛門管を通過して上皮を損傷することが原因となります。この状態が慢性化すると排便後の痛みの悪化や肛門狭窄を来し、痛みや物理的狭窄で排便が非常に困難となってしまいます。

    緩和ケアにおける便秘の薬剤治療

    便秘における薬剤治療で最も多く使用されるのは酸化マグネシウムです。近年、高齢者における酸化マグネシウム剤で問題となった症例等の報告があり3)、当院でも服用時には血清マグネシウムを測定するようになりました。測定してみると正常値を超えている人が意外と多く、そのような患者さんには薬剤を変えるようにしています。

    緩和ケアのチーム医療においてどのように便秘対応するか

    緩和ケアチームへのコンサルテーションの中で、便秘が第一の問題として依頼を受けることはめったにありません。しかし、関わってみると便秘で困っている患者さんの割合は驚くほど高いです。痛みを訴える患者さんには薬剤治療の効果や、副作用の評価が行われますが、副作用としての便秘に対して適切に対応することが痛み治療の成功のカギになります。逆に、対応されなければ、便秘症状のために鎮痛治療が不十分になったり、痛みは軽減しても患者さんの満足度やQOLは低下してしまいます。重要なのは、痛みへの対応と同様に、便秘があれば患者さんのQOLを損なう重大な症状があると医療者が認識して対応することです。
    遠慮や羞恥心のため、診察室で医師に対して便秘について詳細を話してくれる患者さんはほとんどいませんので、便秘について実際に関わるのは看護師さんとなります。便秘に対する評価を看護師さんが患者さんと一緒に行います。この際、患者さんの排便に対する困難感や満足度などの主観的な評価も一緒に評価していきます。そして、医師とそれらの情報を共有して、処方する薬剤やケア方法を医師とともに検討しています。近年、当院では患者さんの排便については回数だけではなく、ブリストル便形状スケール4)による便の状態、いきみなどもルーチンの評価基準に入れました。こうしたことは他の診療科とも共有化していきたいと考えています。
    便秘で困っている患者さんでも痛みの方が訴えやすく、どうしても便秘は二の次になってしまいます。患者さんが便秘の悩みも話していいんだという雰囲気を感じられたり、今まで行ってきた患者さんご自身の対処方法がなるべく生かせるような状況を作ることも大切です。
    聖隷三方原病院 ホスピス所長  今井 堅吾先生

    便秘治療のゴールは、患者さんとの話し合い、多職種との連携によって設定することが重要

    緩和ケアにおける便秘治療のゴールとは

    抗がん剤治療の場合、食欲の低下や脱毛などが起こることがありますが、それでも患者さんは病気をよくするという目標があるから治療をがんばります。しかし、病気をよくするという目標の達成が難しくなると、心地良さ、不快感からの解放などが目標になり、そのような時にどのような排便状況かは大きく影響します。特に、体力が低下した終末期では、強くいきまなければならないようなひどい便秘があると、それが最大の苦痛となる場合もあります。
    排便回数の増加が、必ずしも患者さんの満足度につながるわけではありません。衰弱している患者さんにとっては、排便が最も体力を消耗したり、大変だったりします。例えば、1週間に一度の排便が毎日となれば、元気な人にとっては好ましいことですが極端に衰弱している患者さんの中には余計にしんどくてつらいと言う方もいます。そうしたところに排便コントロールの難しさがあり、治療法も各個人によって異なってきます。便秘を完全に治すことは困難ですが、付き合いやすくすることはできます。患者さんが満足する治療ゴールは、患者さんと話し合いその人の生活を知る中で探っていくものと考えています。

    ※各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。
    1) Hisanaga T, et al.: J Palliat Med 2019; 22(8): 986-997
    2) Tokoro A, et al.: Cancer Med 2019; 8(10): 4883-4891
    3) 酸化マグネシウム製剤製造販売会社:酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い-高マグネシウム血症-,2020年8月
    4) Lewis SJ, et al. : Scand J Gastroenterol 1997; 32(9) : 920-924

    ※各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

    今井 堅吾 先生

    監修

    聖隷三方原病院 ホスピス部長 今井 堅吾 先生 

    1997年名古屋市立大学医学部卒業。1998年磐田市立総合病院消化器科、2004年 淀川キリスト教病院ホスピスを経て2011年聖隷三方原病院 ホスピス科医長。2021年聖隷三方原病院ホスピス所長。
    日本緩和医療学会専門医、日本消化器病学会 専門医、日本内科学会 認定内科医。日本緩和医療学会消化器症状ガイドライン改訂WPG WPG副員長、日本緩和医療学会 鎮静ガイドライン改訂WPG WPG員長。
    ※2024年2月現在の情報です。

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