精神科外来患者における便秘症の有病率とリスク因子の検討

Constipation /Mental Disorder 精神科外来患者における便秘症の有病率とリスク因子の検討
佐藤諒太郎ら:臨床精神薬理 2022; 25: 551-562
【監修】医療法人社団 心緑会 小石川メンタルクリニック 院長 山田 浩樹先生

監修者コメント

今回の調査では、精神科外来患者において、便秘症の患者が一定数認められました。また、ロジスティック回帰分析の結果から、ストレスの自覚や、抗パーキンソン病薬、従来型抗うつ薬、気分安定薬の使用により便秘発症リスクが上がることが示唆されました。ストレスの自覚については、ストレスによって交感神経が優位になると腸管の蠕動運動が低下し、腸液分泌も抑制されることが一因になる可能性があると考えられます。抗パーキンソン病薬や三環系抗うつ薬は概ね抗コリン作用が強く、抗コリン作用によって、消化管運動の緊張や蠕動運動、腸液分泌の抑制作用が便秘症に影響していることが反映されたと考えられます。
精神科の診療においても、問診時や薬剤処方時に患者の日常的な排便状況を把握し、必要があれば便秘症の治療も検討するなどの対応が求められると考えます。

精神疾患の治療においては、抗コリン作用、抗ドパミンD2受容体遮断作用をもつ種々の向精神薬が投与されています。これらの薬剤が、その薬理作用により高頻度に便秘を誘発することは、「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」1)等で指摘されており、これらの薬剤を長期に服用している患者の便秘症の有病率は一般人口に比べ高いことが予想されます。
そこで我々は、アンケート調査結果と診療録の情報をもとに、精神科で治療中の患者の便秘症の実態と関連因子を調査しました。
1)日本消化管学会編,便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症,南江堂,2023,p36

調査概要

目的 精神科外来に通院する患者の便秘症有病率を把握し、便秘症に関連する因子を特定すること。
対象 2020年1月6日~4月30日にかけて、昭和大学附属烏山病院、昭和大学横浜市北部病院、森林公園メンタルクリニックの精神科外来に通院中の患者1,384例。
方法 患者に対し、排便状況、ブリストル便性状スケールによる最近の便の状態などについてのアンケートを実施、回収した。診療録より、ICD-10による診断名、治療期間、アンケート回答日における内服薬の種類、用量に関する情報等を収集し、アンケートの情報と統合したデータベースを作成して解析を行った。
便秘症の定義については、Rome Ⅳの診断基準に基づき、薬剤性便秘症についても症状としてRome Ⅳの機能性便秘症の診断基準を満たす患者は便秘症とした。また、既に緩下剤を使用している患者も便秘症とし、Rome Ⅳ診断基準を満たすこと、緩下剤を使用していることのいずれか、あるいは両方満たす患者を便秘症とした。便秘症であることを従属変数、各種因子を独立変数としてロジスティック回帰分析を行い、便秘症に関連する因子を検討した。
※年齢、性別、治療期間、BMI、ストレスの有無、飲酒、喫煙、外食日数/週、運動日数/週、第2世代抗精神病薬(SGA)、第1世代抗精神病薬(FGA)、抗パーキンソン病薬、新規抗うつ薬、従来型抗うつ薬、気分安定薬、睡眠薬、抗不安薬、ADHD治療薬、抗認知症薬の使用
Limitation 緩下剤を内服している患者を全て便秘症に含めており、便秘症の定義が広い可能性があること、アンケートによる自己申告をデータとして用いており、正確性に疑問があること、処方されている向精神薬の投与量との関連について検討できなかったことなどがあげられる。

結果

1,384例のうち、本研究で定義された便秘症患者は578例(41.8%)であった(Rome Ⅳ診断基準を満たす患者:350例、緩下剤を使用している患者:368例)。欠測値のない患者1,284例に関しロジスティック回帰分析を行ったところ、下表の通りの結果であった。
表/縦軸が年齢、女性、BMI、ストレス、抗パーキンソン病薬、従来型抗うつ薬、気分安定薬、横軸が偏回帰係数、標準誤差、Wald、 オッズ比、95%信頼区間、有意確率

便秘症に関するロジスティック回帰分析

欠損値のない患者(n=1,284)について検討
変数増加法による。*<0.05,**<0.01,***<0.001
a 1歳増加するごとの数値,b 女性=1,男性=0, c 1増加するごとの数値,d ストレスあり=1,なし=0,e 抗パーキンソン病薬あり=1,なし=0,f 従来型抗うつ薬あり=1,なし=0,
g 気分安定薬あり=1,なし=0

佐藤諒太郎ら:臨床精神薬理 2022; 25: 551-562

慢性便秘症は、生存率に影響する可能性があります1)
~便秘症の有無による生存率の比較~【海外データ】

1)Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832

米国で3,933例を対象に行われた、機能性消化管障害の有無と生存率との関連を調べた調査では、慢性便秘症を有する人は、そうでない人
よりも生存率が低いという結果が得られました。
対象・方法 1988~1993年に、米国ミネソタ州オルムステッド郡に住む20歳以上の5,262例にIBS、慢性便秘症、慢性下痢症、ディスペプシア、及び腹痛の診断のため、消化器症状についてアンケート調査(BDQ:the original Bowel Disease Questionnaire)を実施した。アンケートに回答した4,176例より不適格者を除いた3,933例を対象として、2008年までの15年間、生存状況を行政の死亡記録によって確認し、機能性消化管障害と生存率の関係を調査した。
結果 各機能性消化管障害の有無と生存率の関係を、単変量及び調整ハザード比を用いた比例ハザードモデルにて評価したところ、IBS(HR=1.06,95% CI:0.86‒1.32)、慢性下痢症(HR=1.03, 95% CI:0.90‒1.19)、ディスペプシア(HR=1.08, 95% CI:0.58‒2.02)、腹痛(HR=1.09,95%CI: 0.92‒1.30)については関連が認められなかったが、慢性便秘症については関連が認められ、慢性便秘症患者の生存率は、慢性便秘症ではない人に比べ生存率が低かった(HR=1.23, 95%CI:1.07‒1.42、チャールソン併存疾患指数による調整後のHR=1.19, 95%CI:1.03‒1.37)。
Kaplan-Meier推定による調査開始から10年経過時の生存率は、慢性便秘症あり:73%(95%CI:69-76)、慢性便秘症なし:85%(95%CI:84-86)であった。
Limitation 当研究の対象者はMayo Clinicで治療を受けた者に限定されており、集団の約90%が白人であったことから、結果は他の民族集団に当てはまらない可能性がある。また、測定バイアスが結果に影響した可能性がある。
グラフ/縦軸が生存率(%)、横軸が調査以降の年数/当研究では、過去1年間において、ⅰ)排便回数が週に3回未満、ⅱ)排便時の25%以上にいきみがある、ⅲ)排便の25%以上に硬便あるいは兎糞状便がある、ⅳ)排便の25%以上に残便感がある、以上ⅰ)~ⅳ)の症状のうち2つ以上該当する者(IBSは除外)を機能性便秘症とし、622例が該当した。

慢性便秘症と生存率

Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832

抗精神病薬と便秘の関連
抗コリン作用をもつ向精神薬や、抗パーキンソン病薬は、慢性便秘症を生じるリスクが高いことが指摘されています2)

抗コリン薬・抗精神病薬・三環系抗うつ薬:

抗コリン作用により、腸管の平滑筋収縮、蠕動運動、腸液分泌を抑制し便秘を引き起こす(海外データ)3)4)5)

抗パーキンソン病薬:

中枢神経系におけるドパミン活性の増加作用、アセチルコリン活性の低下作用により便秘を引き起こす(海外データ)6)7)
図/向精神薬抗パーキンソン薬等の長期使用、腸管運動機能の低下、恒常的な便塊の停滞→腸管壁伸展→腸管平滑筋の断裂アウエルバッハ神経叢の変性、生命の危険にもつながる重篤な病態/イレウス、腹部コンパートメント症候群、バクテリアルトランスロケーション
向精神薬、抗パーキンソン薬の長期使用により腸管運動機能が低下することで、恒常的に便塊が停滞し物理的に腸管壁が伸展され、腸管平滑筋の断裂やアウエルバッハ神経叢の変性が生じ、腸管運動のさらなる低下をもたらす悪循環に陥ることが懸念される。
慢性便秘症によるイレウス、腹部コンパートメント症候群、バクテリアルトランスロケーションは生命の危険にもつながる恐れのある重篤な病態である。

佐藤諒太郎ら:臨床精神薬理 2022; 25: 551-562 より作成

2)日本消化管学会編,便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症,南江堂,2023,p36
3)Valladales-Restrepo LF, et al.: Dig Dis 2020; 38: 500-506
4)Lerori AM, et al.: Neurogastroenterol Motil 2000; 12: 149-154
5)Every-Palmer S, et al.: Cochrane Database Syst Rev 2017; 1: CD01128
6)Pagano G, et al.: Parkinsonism Relat Disord 2015; 21: 120-125
7)Xiao-Ling Q, et al.: Front Neurol 2020; 11: 567574

2024年12月作成

便秘診療のコツ

精神疾患と便秘の関係性

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