監修者コメント
当研究は、同一の統合失調症患者を20年間にわたって遡り下剤使用開始の因子を検討した初めての研究であると思われます。
当研究の結果から、ゾテピン、クエチアピン、オランザピン、レボメプロマジンなど、便秘症誘発のリスクの高い抗精神病薬による治療を受けている患者に対する、便秘のスクリーニング、治療も考慮した注意深いモニタリングが必要になると考えます。また、同時に、治療ガイドラインに従った処方の最適化により、薬剤性の便秘症を軽減できる可能性があると考えます。
目的 | 統合失調症患者の下剤使用開始に関連する因子を検討すること。 |
対象 | 2021年4月1日以降に精神病院(14施設)に通院し、過去20年間に処方された処方箋が追跡可能であった統合失調症患者※716例 ※DSM-5、またはICD-10により診断 |
方法 | 2021年から、患者の処方記録を5年間隔(2016年、2011年、2006年、2001年)で後ろ向きに解析した。抗精神病薬にはクロルプロマジン換算値、抗コリン薬にはビペリデン換算値、抗うつ薬にはイミプラミン換算値、抗不安薬と睡眠薬にはジアゼパム換算値を用いて比較した。下剤の使用頻度の違いと傾向を特定するため、データが完全である716例についてBonferroni補正Cochran-Armitage検定を用いて解析した。また、20年にわたる下剤使用開始に関連する要因を評価するため、2001年時点で下剤を服用していなかった536例について多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析した。 |
Limitation | 便秘の代理指標として下剤の使用を採用したこと、外来患者を対象としたため、他の病院で処方された下剤については評価していないこと、対象者が無作為化されておらず、サンプリングバイアスがある可能性があること、下剤の併用や用量は評価されなかったこと、併存疾患などの交絡因子を評価しなかったことなどがlimitationとしてあげられる。 |
20年間の下剤の処方頻度と下剤による治療を受けた患者数(n=716)
下剤による治療を受けた患者の推移
下剤使用開始の関連因子(n=536)
表1 慢性便秘症の原因となりうる基礎疾患
対象・方法 | 2020年1~4月、及び2023年1~4月において、昭和大学関連病院(烏山病院、横浜市北部病院、森林公園メンタルクリニック、東病院)の統合失調症の外来患者399例(平均年齢:49.3歳、男性:178例、女性:221例)に対して、生活習慣や排便状況等に関するアンケート調査を実施し、疾患や治療歴、薬剤の種類や投与量※などが記載された診療録と統合して、統合失調症患者における慢性便秘症の関連因子を調査した。当研究では、Rome Ⅳ診断基準を満たすこと、下剤を使用していることのいずれか、またはその双方を便秘ありと定義した。 ※当研究では、患者が服用している薬剤の投与量を包括的に測定するため、独自開発した「臨床用量比(CDR)」を用いた。CDRは薬剤の投与量を簡単に表したもので、各薬剤の添付文書に記載されている日本での最大投与量を1とし、それに対する実際の投与量の比率にて算出する。当研究では算出したCDRを加算して各薬剤カテゴリーの総投与量を算出した。(例:リスペリドン6mg=6/6=1、3mg=3/6=0.5、クエチアピン[速放錠]750mg=750/750=1、500mg=500/750=0.67、エスシタロプラム10mg+ミルタザピン15mg=10/20+15/45=0.5+0.33=0.83) |
Limitation | 横断研究のため因果関係を明らかにできないこと、生活習慣要因のすべてを検討したわけではないこと、アンケートによる調査結果は正確ではない可能性があること、当研究で使用したCDRは独自の指標であること、薬物内服期間を調査していないこと、身体的合併症の影響を考慮していないことなどがlimitationとしてあげられる。 |
結果 | 解析対象患者399例のうち、慢性便秘症ありの患者は173例(43.4%)であった。ロジスティック回帰分析の結果、慢性便秘症に関連のある因子は、女性であること(OR:2.084、95%CI:1.352-3.211、p=0.001)、抗パーキンソン病薬のCDR(OR:2.364、95%CI:1.133-4.936、p=0.022)、BZD系睡眠薬のCDR(OR:1.525、95%CI:1.174-1.928、p=0.002)であった。 |
便秘関連因子
2025年1月作成
【対談】精神科における便秘症診療を考える
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授 中島 淳 先生/医療法人 静心会 桶狭間病院 藤田こころケアセンター 病院長 藤田 潔 先生
精神疾患と便秘の関係性
不適切な排便コントロールの影響
【監修】看護師/医療経営コンサルタント 田中 智恵子 先生
精神疾患患者の便秘症発症に係る因子の検討
【監修】医療法人社団 心緑会 小石川メンタルクリニック 院長 山田 浩樹先生
信頼関係を築いて便秘の「思い込み」を解く
トイレweek2024(EAファーマ協賛)特設ページにて便秘の専門医、津田桃子先生のインタビュー記事を公開
心血管イベントにおける排便管理の重要性
【監修】自治医科大学内科学講座 循環器内科学部門 教授 苅尾 七臣 先生
排便頻度と心血管疾患による死亡率との関連
【監修】熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器内科学 教授 辻田 賢一 先生
便秘は急性心不全患者の心不全再入院リスクを高める可能性があります
【監修】仙台市医療センター 仙台オープン病院 循環器内科 主任部長 浪打 成人 先生
慢性便秘症診療に直腸エコー観察は有用か? 【2】直腸エコー観察に基づいた治療アルゴリズム
【監修】横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授中島 淳 先生
慢性便秘症診療に直腸エコー観察は有用か? 【1】病態機能評価における有用性
【監修】横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授中島 淳 先生
「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」のポイント グーフィス®とモビコール®の紹介を含めて
【監修】九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学(第三内科)准教授
伊原 栄吉 先生
「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」におけるグーフィスⓇの位置付け
【監修】横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授
中島 淳 先生
治療継続のコツ 治療段階を患者さんと共有する
医師と便秘症患者さんとの間には治療への意識の差がある。便秘の不快症状を訴える患者さんへの正しい治療の啓発が求められている。
整形外科における便秘について
ロコモティブシンドロームは大きな活動性低下を招き、便秘を誘発する可能性がある。また、関節症の疼痛治療においては副作用としての便秘を予防する必要がある。
緩和ケアにおける便秘治療のポイントとは
緩和ケアで起こる便秘の原因は様々であり、体力の温存の観点からも排便コントロールが難しく、QOLに大きな影響を与える。身体状態、食事摂取量や便秘の症状に合わせた便秘治療が求められる。
本サイトでは、より良いコンテンツの提供、アクセス解析およびサイトの利便性向上のためにクッキー(Cookie)を使用しております。本サイトの閲覧を続けることで、クッキーの使用に同意したことになります。クッキーの設定変更および詳細についてはこちらをご覧ください。