統合失調症患者の下剤使用開始に関連する因子の検討:レトロスペクティブコホート研究

Constipation /Mental Disorder 統合失調症患者の下剤使用開始に関連する因子の検討:レトロスペクティブコホート研究
Kawamata Y, et al.: NPPR 2024; 44: 60-66
【監修】獨協医科大学 精神神経医学講座 講師 川俣 安史 先生

監修者コメント

当研究は、同一の統合失調症患者を20年間にわたって遡り下剤使用開始の因子を検討した初めての研究であると思われます。
当研究の結果から、ゾテピン、クエチアピン、オランザピン、レボメプロマジンなど、便秘症誘発のリスクの高い抗精神病薬による治療を受けている患者に対する、便秘のスクリーニング、治療も考慮した注意深いモニタリングが必要になると考えます。また、同時に、治療ガイドラインに従った処方の最適化により、薬剤性の便秘症を軽減できる可能性があると考えます。

抗精神病薬は、有害事象の一つとして便秘を誘発することが知られており、これには神経伝達物質メカニズムの一つであるムスカリン性抗コリン作用が関与していると考えられています(海外データ)1)。ところで、抗精神病薬誘発性の便秘症には、どのような因子が関与しているのでしょうか。Linらは、第二世代抗精神病薬(SGA)の単剤療法を受けた統合失調症患者における退院時の下剤常用に関連する因子を検討した研究で、高齢であること、及び抗精神病薬または抗コリン薬の高用量投与が、下剤使用の増加と関連していたことを報告しています(海外データ)2)3)。一方、個々の患者における抗精神病薬誘発性の便秘に関連する因子を縦断的に検討した研究はこれまでにありませんでした。そこで我々は、同一の統合失調症患者を20年間後ろ向きに調査し、下剤使用開始に関連する因子について報告しました。
1)Xu Y, et al.: CNS Drugs 2021; 35(12): 1265-1274  2) Lin CH, et al.: Eur Neuropsychopharmacol 2021; 43: 139-146  3)Lin CH, et al.: Psychogeriatrics 2022; 22(5): 718-727

試験概要

目的 統合失調症患者の下剤使用開始に関連する因子を検討すること。
対象 2021年4月1日以降に精神病院(14施設)に通院し、過去20年間に処方された処方箋が追跡可能であった統合失調症患者716例
※DSM-5、またはICD-10により診断
方法 2021年から、患者の処方記録を5年間隔(2016年、2011年、2006年、2001年)で後ろ向きに解析した。抗精神病薬にはクロルプロマジン換算値、抗コリン薬にはビペリデン換算値、抗うつ薬にはイミプラミン換算値、抗不安薬と睡眠薬にはジアゼパム換算値を用いて比較した。下剤の使用頻度の違いと傾向を特定するため、データが完全である716例についてBonferroni補正Cochran-Armitage検定を用いて解析した。また、20年にわたる下剤使用開始に関連する要因を評価するため、2001年時点で下剤を服用していなかった536例について多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析した。
Limitation 便秘の代理指標として下剤の使用を採用したこと、外来患者を対象としたため、他の病院で処方された下剤については評価していないこと、対象者が無作為化されておらず、サンプリングバイアスがある可能性があること、下剤の併用や用量は評価されなかったこと、併存疾患などの交絡因子を評価しなかったことなどがlimitationとしてあげられる。

結果

20年間の下剤処方のあらまし

20年間の下剤の処方頻度と、下剤による治療を受けた患者数は下表及び下図のとおりであった。処方された下剤は、酸化マグネシウム、センナ、ピコスルファートナトリウム水和物、ルビプロストン、エロビキシバット、ダイオウ、グリセリン(浣腸)であった。2001年において下剤による治療を受けた患者は180/716例25.1%、2021年では244/716例34.1%であり、いずれかの下剤による治療を受けた患者は20年間で有意な増加傾向にあった(χ2=16.83, df=1, p=0.028 Bonferroni補正Cochran-Armitage検定)。
表/縦軸が下剤、酸化マグネシウム、センナ、ピコスルファートナトリウム水和物、ルビプロストン、エロビキシバット、ダイオウ、グリセリン、下剤による治療を受けた患者数a%)、横軸が年、2001、2006、2011、2016、2021、傾向

20年間の下剤の処方頻度と下剤による治療を受けた患者数(n=716)

a 下剤の重複投与はカウントしなかった。
Kawamata Y, et al.: NPPR 2024; 44: 60-66
下剤による治療を受けた患者(%)の折れ線グラフ

下剤による治療を受けた患者の推移

Kawamata Y, et al.: NPPR 2024; 44: 60-66

下剤使用開始に関連する因子

下剤使用開始と有意に関連した因子は、女性、年齢、全ジアゼパム換算値、レボメプロマジン、オランザピン、クエチアピン、ゾテピン、リチウム、カルバマゼピンの投与量であった。
表/縦軸が女性、年齢、全ジアゼパム換算値、レボメプロマジン、オランザピン、クエチアピン、ゾテピン、リチウム、カルバマゼピン、横軸がB、SE、Wald値、p値、OR

下剤使用開始の関連因子(n=536)

B:偏回帰係数  SE:標準誤差  OR:オッズ比
Kawamata Y, et al.: NPPR 2024; 44: 60-66

慢性便秘症の原因となりうる基礎疾患

慢性便秘症は、糖尿病や甲状腺機能低下症などの内分泌・代謝疾患、うつ病や統合失調症、パーキンソン病などの精神疾患等、様々な基礎疾患がその原因となりえます。慢性便秘症に至るメカニズムは基礎疾患により様々ですが、精神疾患の場合には疾患自体だけでなく治療に用いる薬剤によっても便秘が引き起こされる点に留意する必要があります。
表/代謝疾患:糖尿病、内分泌疾患:甲状腺機能低下症・褐色細胞腫・副甲状腺機能亢進症、変性疾患:アミロイドーシス、膠原病:全身性強皮症・皮膚筋炎、神経疾患:パーキンソン病・脳血管疾患・多発性硬化症・ヒルシュスプルング病・脊髄障害、筋疾患:筋強直性ジストロフィー、精神疾患:うつ病・統合失調症、狭窄性器質性疾患:消化管の腫瘍・腫瘍による壁外性圧排・消化管の狭窄、非狭窄性器質性疾患:慢性偽性腸閉塞症・巨大結腸・裂肛・痔核・直腸脱・直腸瘤

表1 慢性便秘症の原因となりうる基礎疾患

「日本消化管学会編, 便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症, 南江堂, 2023, p.32」より許諾を得て転載

統合失調症患者における便秘症の関連因子
統合失調症患者を対象とした多施設共同研究では、女性、抗パーキンソン病薬、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の投与が便秘症の関連因子として示唆されました。

Tazaki T, et al.: NPPR 2024; 44: 604-613

調査概要

対象・方法 2020年1~4月、及び2023年1~4月において、昭和大学関連病院(烏山病院、横浜市北部病院、森林公園メンタルクリニック、東病院)の統合失調症の外来患者399例(平均年齢:49.3歳、男性:178例、女性:221例)に対して、生活習慣や排便状況等に関するアンケート調査を実施し、疾患や治療歴、薬剤の種類や投与量などが記載された診療録と統合して、統合失調症患者における慢性便秘症の関連因子を調査した。当研究では、Rome Ⅳ診断基準を満たすこと、下剤を使用していることのいずれか、またはその双方を便秘ありと定義した。
※当研究では、患者が服用している薬剤の投与量を包括的に測定するため、独自開発した「臨床用量比(CDR)」を用いた。CDRは薬剤の投与量を簡単に表したもので、各薬剤の添付文書に記載されている日本での最大投与量を1とし、それに対する実際の投与量の比率にて算出する。当研究では算出したCDRを加算して各薬剤カテゴリーの総投与量を算出した。(例:リスペリドン6mg=6/6=1、3mg=3/6=0.5、クエチアピン[速放錠]750mg=750/750=1、500mg=500/750=0.67、エスシタロプラム10mg+ミルタザピン15mg=10/20+15/45=0.5+0.33=0.83)
Limitation 横断研究のため因果関係を明らかにできないこと、生活習慣要因のすべてを検討したわけではないこと、アンケートによる調査結果は正確ではない可能性があること、当研究で使用したCDRは独自の指標であること、薬物内服期間を調査していないこと、身体的合併症の影響を考慮していないことなどがlimitationとしてあげられる。
結果 解析対象患者399例のうち、慢性便秘症ありの患者は173例(43.4%)であった。ロジスティック回帰分析の結果、慢性便秘症に関連のある因子は、女性であること(OR:2.084、95%CI:1.352-3.211、p=0.001)、抗パーキンソン病薬のCDR(OR:2.364、95%CI:1.133-4.936、p=0.022)、BZD系睡眠薬のCDR(OR:1.525、95%CI:1.174-1.928、p=0.002)であった。
表/縦軸が、性別(女性)a、抗パーキンソン病薬のCDRb、BZD系睡眠薬のCDRb横軸が、B(SE)、Wald値、OR、95%CI、p値

便秘関連因子

BZD:ベンゾジアゼピン  CDR:臨床用量比  CI:信頼区間  OR:オッズ比  SE:標準誤差  B:偏回帰係数
a 男性を0、女性を1としてコード化した  b CDRが1増加するごとの数値  *p<0.05, **p<0.01.
Tazaki T, et al.: NPPR 2024; 44: 604-613
各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

2025年1月作成

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