監修者コメント
心血管イベントは血圧サージ(血圧変動性を上昇させる要素)によって引き起こされると考えます。
血圧変動性には、時相によってさまざまな表現型があり、心拍動毎の変動、急性の誘因特異的な変動(肉体的・精神的ストレス、排便時のいきみ、低温、睡眠不足によるものなど)、体位による変動、日内変動、1日毎の変動、季節変動、1年毎の変動などがあります。そして、これらの血圧サージの最高点が同調すると、ダイナミック血圧サージが生成されます(いわゆる血圧サージの共鳴仮説3).4)、下図5))。
若年者の各々の血圧サージは小さく、同調する血圧サージは生理的なものです。しかし加齢とともに各々の血圧サージの振幅は大きくなり、同調したダイナミック血圧サージは、心血管イベントを引き起こす可能性が大きい病的なものとなります(下図5))。
特に、急激な血圧上昇をもたらす誘因特異的サージには注意が必要です。中でも先に紹介した赤澤らの報告1)にみるように、高齢者は排便時のいきみによって血圧が上昇しやすいと考えられ、高齢者の排便時のいきみや、過度ないきみをもたらす便秘症のマネジメントは重要であると考えます。
対象・方法 | 療養型病棟に入院中の患者と外来通院患者から76~98歳の被験者22例、比較対照群として19~26歳の若年健常者10例を選択し、夏季4ヵ月間に、非観血的携帯型自動血圧計を使用して、オシロメトリック法により30分間隔で24時間血圧を測定した。 |
Limitation | 当研究では排便時の血圧の変化を検討したが、高齢者は一般に複数の疾患を持つことが多く、血圧変動には、年齢、日常生活動作、睡眠覚醒リズム、疾患などの要素が混在し、結果に影響を及ぼしていることを考慮する必要がある。 |
息を止める
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胸腹腔内圧の上昇
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大静脈が圧迫される
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静脈血の心還流量の減少
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心拍出量の減少
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血圧の降下
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圧受容器のインパルス頻度の減少
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心拍数の増加・末梢血管の緊張による抵抗の増大
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血圧上昇
対象・方法 | 1988~1993年に、米国ミネソタ州オルムステッド郡に住む20歳以上の5,262例にIBS、慢性便秘症、慢性下痢症、ディスペプシア、及び腹痛の診断のため、消化器症状についてアンケート調査(BDQ:the original Bowel Disease Questionnaire)を実施した。アンケートに回答した4,176例より不適格者を除いた3,933例を対象として、2008年までの15年間、生存状況を行政の死亡記録によって確認し、機能性消化管障害と生存率の関係を調査した。 |
結果 | 各機能性消化管障害の有無と生存率の関係を、単変量及び調整ハザード比を用いた比例ハザードモデルにて評価したところ、I BS(HR=1.06, 95% CI:0.86‒1.32)、慢性下痢症(HR=1.03, 95% CI:0.90‒1.19)、ディスペプシア(HR=1.08, 95% CI:0.58‒2.02)、腹痛(HR=1.09, 95%CI: 0.92‒1.30)については関連が認められなかったが、慢性便秘症については関連が認められ、慢性便秘症患者の生存率は、慢性便秘症ではない人に比べ生存率が低かった(HR=1.23, 95% CI:1.07‒1.42、チャールソン併存疾患指数による調整後のHR=1.19, 95% CI:1.03‒1.37)。 Kaplan-Meier推定による調査開始から10年経過時の生存率は、慢性便秘症あり:73%(95%CI:69-76)、慢性便秘症なし:85%(95%CI:84-86)であった。 |
Limitation | 当研究の対象者はMayo Clinicで治療を受けた者に限定されており、集団の約90%が白人であったことから、結果は他の民族集団に当てはまらない可能性がある。また、測定バイアスが結果に影響した可能性がある。 |
慢性便秘症と生存率
2024年11月作成
【対談】精神科における便秘症診療を考える
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授 中島 淳 先生/医療法人 静心会 桶狭間病院 藤田こころケアセンター 病院長 藤田 潔 先生
精神疾患と便秘の関係性
不適切な排便コントロールの影響
【監修】看護師/医療経営コンサルタント 田中 智恵子 先生
統合失調症患者の下剤使用開始に関連する因子の検討:レトロスペクティブコホート研究
【監修】獨協医科大学 精神神経医学講座 講師 川俣 安史 先生
精神科外来患者における便秘症の有病率とリスク因子の検討
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信頼関係を築いて便秘の「思い込み」を解く
トイレweek2024(EAファーマ協賛)特設ページにて便秘の専門医、津田桃子先生のインタビュー記事を公開
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「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」のポイント グーフィス®とモビコール®の紹介を含めて
【監修】九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学(第三内科)准教授
伊原 栄吉 先生
「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」におけるグーフィスⓇの位置付け
【監修】横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授
中島 淳 先生
治療継続のコツ 治療段階を患者さんと共有する
医師と便秘症患者さんとの間には治療への意識の差がある。便秘の不快症状を訴える患者さんへの正しい治療の啓発が求められている。
整形外科における便秘について
ロコモティブシンドロームは大きな活動性低下を招き、便秘を誘発する可能性がある。また、関節症の疼痛治療においては副作用としての便秘を予防する必要がある。
緩和ケアにおける便秘治療のポイントとは
緩和ケアで起こる便秘の原因は様々であり、体力の温存の観点からも排便コントロールが難しく、QOLに大きな影響を与える。身体状態、食事摂取量や便秘の症状に合わせた便秘治療が求められる。
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