心血管イベントにおける排便管理の重要性

Constipation/Cardiovascular Disease 心血管イベントにおける排便管理の重要性
【監修】自治医科大学内科学講座 循環器内科学部門 教授 苅尾 七臣 先生
日常生活中の異常な血圧の変動は、高齢者の心血管イベントに大きな影響を及ぼし、特に排便時のいきみは、急激な血圧の上昇をもたらすと考えられます。 赤澤らは、排便が血圧の変動に及ぼす影響を検討し、高齢者では、若年者に比べ、排便時のいきみによって収縮期血圧が上昇しやすいと考えられることを 報告しました1)
1)赤澤寿美ら: 自律神経 2000; 37: 431-439

監修者コメント

心血管イベントは血圧サージ(血圧変動性を上昇させる要素)によって引き起こされると考えます。
血圧変動性には、時相によってさまざまな表現型があり、心拍動毎の変動、急性の誘因特異的な変動(肉体的・精神的ストレス、排便時のいきみ、低温、睡眠不足によるものなど)、体位による変動、日内変動、1日毎の変動、季節変動、1年毎の変動などがあります。そして、これらの血圧サージの最高点が同調すると、ダイナミック血圧サージが生成されます(いわゆる血圧サージの共鳴仮説3).4)、下図5))。
若年者の各々の血圧サージは小さく、同調する血圧サージは生理的なものです。しかし加齢とともに各々の血圧サージの振幅は大きくなり、同調したダイナミック血圧サージは、心血管イベントを引き起こす可能性が大きい病的なものとなります(下図5))。
特に、急激な血圧上昇をもたらす誘因特異的サージには注意が必要です。中でも先に紹介した赤澤らの報告1)にみるように、高齢者は排便時のいきみによって血圧が上昇しやすいと考えられ、高齢者の排便時のいきみや、過度ないきみをもたらす便秘症のマネジメントは重要であると考えます。

3)Kario K: Prog Cardiovasc Dis 2016; 59: 262-281
4)Kario K, et al.: Prog Cardiovasc Dis 2017; 60: 435-449(著者にEAファーマ株式会社より研究資金を受領している者が含まれている。)
5)Kario K, Wang JG: Hypertension 2018; 71: 979-984(著者にEAファーマ株式会社より研究資金を受領している者が含まれている。)
グラフ/縦軸が血圧、横軸が年齢(子ども、若年者、若年成人、成人、高齢者)
グラフ/ダイナミック血圧サージ、異なる時相における血圧サージの同調
※加齢に伴うダイナミックな血圧サージの上昇は、平均血圧の上昇よりもはるかに急である。2017年のAHA/ACCガイドライン6)では、高血圧の診断閾値、マネジメントの目標値が140/90mmHgから130/80mmHgに変更された。平均血圧の診断基準値と管理目標を130/80mmHgとする高血圧の早期治療は、140/90mmHgという以前の基準値よりも、血圧サージの累積リスク負担をはるかに軽減すると考えられる。
6)Whelton PK, et al.: Hypertension 2018; 71: e13-e115

排便による収縮期血圧の変化
高齢者は、排便時の「いきみ」によって血圧が上昇しやすい

排便による収縮期血圧の変動は、高齢者では、排便直前133.6±19.5mmHg、排便時147.6±20.5mmHg、排便30分後143.4±17.4mmHg、若年者では、排便直前118.0±20.4mmHg、排便時116.6±18.5mmHg、排便30 分後111.6±19.1mmHgであり、排便時と排便30分後は、高齢者は若年者に比べ有意な高値を示した(いずれもp<0.05、t検定)。
グラフ/縦軸が収縮期血圧、横軸が時間(30分前、直前、排便時、30分後、60分後)
対象・方法 療養型病棟に入院中の患者と外来通院患者から76~98歳の被験者22例、比較対照群として19~26歳の若年健常者10例を選択し、夏季4ヵ月間に、非観血的携帯型自動血圧計を使用して、オシロメトリック法により30分間隔で24時間血圧を測定した。
Limitation 当研究では排便時の血圧の変化を検討したが、高齢者は一般に複数の疾患を持つことが多く、血圧変動には、年齢、日常生活動作、睡眠覚醒リズム、疾患などの要素が混在し、結果に影響を及ぼしていることを考慮する必要がある。
1)赤澤寿美ら: 自律神経 2000; 37: 431-439より作図
また、小池は、排便時のいきみによる血圧上昇のメカニズムについて、バルサルバ効果を用いて下の図のように説明しています2)

息を止める

胸腹腔内圧の上昇

大静脈が圧迫される

静脈血の心還流量の減少

心拍出量の減少

血圧の降下

圧受容器のインパルス頻度の減少

心拍数の増加・末梢血管の緊張による抵抗の増大

血圧上昇

※いきむ動作で呼吸が止まり、筋緊張が起こり重い荷物を持つことができるなどの生理的な現象であり、イタリアの解剖学者のAntonio Maria Valsalvaが使ったことから「バルサルバ効果」と名付けられた。
2)小池伸享: 月刊ナーシング 2011; 31(11): 18-26

慢性便秘症は、生存率に影響する可能性があります1)
~便秘症の有無による生存率の比較~【海外データ】

米国で3,933例を対象に行われた、機能性消化管障害の有無と生存率との関連を調べた調査では、慢性便秘症を有する人は、そうでない人よりも生存率が低いという結果が得られました。
対象・方法 1988~1993年に、米国ミネソタ州オルムステッド郡に住む20歳以上の5,262例にIBS、慢性便秘症、慢性下痢症、ディスペプシア、及び腹痛の診断のため、消化器症状についてアンケート調査(BDQ:the original Bowel Disease Questionnaire)を実施した。アンケートに回答した4,176例より不適格者を除いた3,933例を対象として、2008年までの15年間、生存状況を行政の死亡記録によって確認し、機能性消化管障害と生存率の関係を調査した。
結果 各機能性消化管障害の有無と生存率の関係を、単変量及び調整ハザード比を用いた比例ハザードモデルにて評価したところ、I BS(HR=1.06, 95% CI:0.86‒1.32)、慢性下痢症(HR=1.03, 95% CI:0.90‒1.19)、ディスペプシア(HR=1.08, 95% CI:0.58‒2.02)、腹痛(HR=1.09, 95%CI: 0.92‒1.30)については関連が認められなかったが、慢性便秘症については関連が認められ、慢性便秘症患者の生存率は、慢性便秘症ではない人に比べ生存率が低かった(HR=1.23, 95% CI:1.07‒1.42、チャールソン併存疾患指数による調整後のHR=1.19, 95% CI:1.03‒1.37)。 Kaplan-Meier推定による調査開始から10年経過時の生存率は、慢性便秘症あり:73%(95%CI:69-76)、慢性便秘症なし:85%(95%CI:84-86)であった。
Limitation 当研究の対象者はMayo Clinicで治療を受けた者に限定されており、集団の約90%が白人であったことから、結果は他の民族集団に当てはまらない可能性がある。また、測定バイアスが結果に影響した可能性がある。
グラフ/縦軸が生存率(%)、横軸が調査以降の年数/当研究では、過去1年間において、ⅰ)排便回数が週に3回未満、ⅱ)排便時の25%以上にいきみがある、ⅲ)排便の25%以上に硬便あるいは兎糞状便がある、ⅳ)排便の25%以上に残便感がある、以上ⅰ)~ⅳ)の症状のうち2つ以上該当する者(IBSは除外)を機能性便秘症とし、622例が該当した。

慢性便秘症と生存率

1)Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832

便秘がもたらす疾患
便秘が原因となる疾患があることを考慮する

1.腸管内圧上昇が原因で起こり得る疾患

虚血性腸炎、憩室、憩室炎、直腸脱、内・外痔核、裂肛 など

2.排便時の努責により起こり得る疾患

血圧上昇による、脳卒中、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、胸部・腹部大動脈解離、胸部・腹部大動脈瘤破裂 など

3.便秘をきたす器質性疾患により、起こり得る疾患

大腸がんによる腸閉塞、穿孔 など
筒井敦子、渡邊昌彦:White 2017; 5(1): 18-23

2024年11月作成

便秘診療のコツ

精神疾患と便秘の関係性

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