慢性便秘症座談会2025

2025年8月8日(金)19:00~20:30 TKP品川カンファレンスセンター
【司会】国際医療福祉大学 消化器内科統括教授/熱海病院 病院長 中島 淳 先生
【パネリスト】川崎医科大学 検査診断学(内視鏡・超音波) 教授 眞部 紀明 先生
       九州大学大学院 医学研究院 病態制御内科学 准教授 伊原 栄吉 先生

1.『便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症』発刊後の状況

フローチャートの意義

中島先生
中島先生:伊原先生が中心となって作成した『便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症』(以下「便通異常症診療ガイドライン」)が発刊されてはや2年が経ちましたが、『慢性便秘症診療ガイドライン2017 』の発刊時に比べ、臨床現場により大きなインパクトを与えたのではないかと感じています。
 「便通異常症診療ガイドライン」には、初めて治療のフローチャートが掲載されましたね(下図)。便秘症診療についてはこれまで明確な指針がありませんでしたが、フローチャートによって治療の手順や道筋が具体的に示されたということで、治療にあたる先生方にとって、かなり役立っているのではないかと思います。これまで便秘症治療に用いる主な薬は、酸化マグネシウムと刺激性下剤ぐらいでした。まず酸化マグネシウムを投与して、不十分なら刺激性下剤という流れが多かったと思います。
しかし2010年代に入り、新規作用機序をもつ便秘症治療薬3剤が上市され、フローチャートには、ファーストラインの酸化マグネシウムに続くセカンドラインとして位置づけられました。
 そして、従来から用いられてきた酸化マグネシウムや刺激性下剤についても、適正な使い方について注意喚起がなされています。
 例えば、酸化マグネシウムについては、併用薬や高マグネシウム血症に留意して安全に使うことの重要性を説いており、現場の先生方の意識化に貢献しているのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
『便通異常症診療ガイドライン2023 - 慢性便秘症』フローチャート フローチャート2
『便通異常症診療ガイドライン2023 - 慢性便秘症』 フローチャート フローチャート2を示す図

注1)マグネシウム製剤は, 高齢者や腎機能低下者には注意. 血清マグネシウム値をモニタリングする. 保医発により, 保険診療上, 糖類下剤のラクツロース製剤とPEG(polyethylene
glycol)は, 従来薬を投与した後, 効果不十分の場合に投与可能である.
注2)高齢者など患者の病態に応じて投与する. 他の治療薬との併用も可である.
注3)オンデマンド療法が頻回になる場合は治療薬の変更を考慮する. 注4)他の治療薬との併用も可である.

「日本消化管学会編, 便通異常症診療ガイドライン2023‒慢性便秘症, 南江堂, 2023, p.xxiii」より許諾を得て転載
A1, A2, Bはガイドラインを参照すること.
プロバイオティクス、消化管運動機能改善薬は慢性便秘症の効能又は効果を有していない

各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

酸化マグネシウムの使用について

眞部先生:近年、便秘症はもはや消化器領域だけでなく、循環器科や精神科など他の領域にもかかわる疾患として認知されてきています。「便通異常症診療ガイドライン」の発刊はそういった他領域の医師に対してもアピールするところがあり、実際に活用されている先生方も多いのではないでしょうか。したがって、酸化マグネシウムの使用についても、消化器内科医だけでなく、他領域の医師も注意を払ってきている、そのような印象を持っています。
 高齢者ではアスピリンの服用に伴ってPPIやP-CABを併用しているケースも多いと思います。そのような患者が便秘症になると、これまでは酸化マグネシウムが処方されていたこともあったと思いますが、「便通異常症診療ガイドライン」で酸化マグネシウムとPPIを併用すると効果が減弱することなどが改めて示されましたので、これらを同時に処方することも減ってきているのではないでしょうか。
眞部先生

刺激性下剤の使用について

【各ステージにおける便秘症の憂慮】
①向精神薬の副作用、ストレス、運動不足等により腸管運動が低下し、便秘症が多発する4~6)
②便秘症状を訴えられないことによる治療開始の遅延、刺激性下剤の連用・摘便、浣腸処置による患者や看護スタッフの負担が増加する(海外データを含む)8~11)
③上記治療による便秘症の難治化、便秘症自体が精神疾患を更に悪化させる可能性がある(海外データを含む)12),13)
精神疾患患者を取り巻く様々な要因で、便秘症状悪化のサイクルに陥り、イレウスの発生に繋がる恐れがある
中島先生:「便通異常症診療ガイドライン」の発刊と前後して、各社の酸化マグネシウムの電子添文では併用注意薬が記載されましたので、その影響もあるかもしれませんね。
 一方、酸化マグネシウムとともに、従来の便秘症治療で広く用いられてきた刺激性下剤についてはどうでしょうか。こちらも依存性などに注意して使用する必要のある薬で、「便通異常症診療ガイドライン」では頓用が推奨されていますが、実際は適正使用が進んでいる診療科と、そうではない診療科もあるように思います。
眞部先生:精神科領域では、他科に比べ刺激性下剤を使用されている先生方が多いのではないかと思います。やはり精神科では、難治の便秘症患者が多いという背景が関係しているのではないでしょうか。
伊原先生
伊原先生:精神科では難治の便秘症患者が確かに多いですね。これまでは酸化マグネシウムか刺激性下剤しかありませんでしたから、特に精神科の患者に対しては刺激性下剤が多く用いられ、逆に難治の患者をつくってきてしまった歴史があるとも思います。これからは、「便通異常症診療ガイドライン」のフローチャートなどを参考にしていただき、新規作用機序をもつ便秘症治療薬も使って、そのような難治の患者をつくらないようにする取り組みが必要になってくると思います。
中島先生:酸化マグネシウムにしても、刺激性下剤にしても、周知が足りないところでは、我々消化器内科医が中心となって、院内でもいろいろな話をしながら注意を呼び掛けていく必要がありますね。

2.慢性便秘症の病態と患者満足度から考える薬物選択のポイント

高齢の患者に対するアプローチ

中島先生:続いて、高齢者や他科疾患に併発した便秘症の病態的な特徴、あるいはこれらの患者にとって満足度が高い治療とはどのようなものかを考えたいと思います。
 便秘症のハイボリュームゾーンは高齢者です。それは、高齢者では腸管運動が低下して結腸通過時間が遅延しているということがまず原因として考えられる1)。このような患者にファーストラインとして酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤を用いると、便秘症が軽い人であれば治ると思いますが、大腸通過時間が遅延しているような患者では、かなりの量の浸透圧性下剤を用いても便を軟らかくするだけで結果的に軟便や下痢になってしまう。腸管運動が低下しているわけですから、便を軟らかくしても直腸まで届かないわけです。それでこれまでは腸管運動を促進させるために刺激性下剤が用いられてきた。しかし先ほどから話が出ていますように、刺激性下剤にはいろいろなピットフォールがありますね。浸透圧性下剤を使い過ぎると便が軟らかくなり過ぎてしまう、刺激性下剤を用いると依存性、習慣性の問題が出てくる。このような問題を考えると、特に高齢の便秘症患者では、新規作用機序をもつ便秘症治療薬が有効になってくると思いますが、いかがでしょうか。
1)Madsen JL, et al.: Age Ageing 2004; 33(2): 154-159

高齢者と若年者の結腸通過時間の違い〔海外データ〕

1)Madsen JL, et al.: Age Ageing 2004; 33(2): 154-159
高齢者と若年者での結腸通過時間
高齢者と若年者での結腸通過時間を示す表
Madsen JL, et al.: Age Ageing 2004; 33(2): 154 -159
高齢者および若年者における消化管運動の評価結果
高齢者および若年者における消化管運動の評価結果
Madsen JL, et al.: Age Ageing 2004; 33(2): 154 -159より作表
年齢、性差、BMIおよび喫煙が消化管運動に与える影響
年齢、性差、BMIおよび喫煙が消化管運動に与える影響を示す表
Madsen JL, et al.: Age Ageing 2004; 33(2): 154 -159より作表
対象・方法 デンマークの健康高齢者16例(男性8例、女性8例)と、健康若年者16例(男性8例、女性8例)を対象とした。
朝、ラベルマーカーを含む1600kJの固液混合食(パン80g、オムレツ120g、水200g)を摂取させた後、ラベルマーカーが小腸から検出されなくなるまで、30分間隔でガンマカメラにて確認した。翌日からは24時間毎にラベルマーカーが結腸から排出されるまでガンマカメラにて確認し、結腸通過時間を測定した。水には111In-DTPA、オムレツには99mTcをそれぞれ加え、ラベルマーカーとした。
Limitation 当試験のlimitationとして、身体活動レベル、食習慣、心理的要因のばらつきが、結果に影響を与えた可能性があること、若年女性の胃排出評価が月経周期を考慮した時期に行われなかったことなどがあげられる。
眞部先生:大久保先生の研究2)をみますと、ブリストル便形状スケールの4型が一番QOLがいいという結果が出ています。このようなことをみても、単に便を軟らかくするだけでは患者は満足していないということがうかがえます。
 中島先生がおっしゃったように、腸管運動が低下している高齢の便秘症患者にいくら浸透圧性下剤を用いても便が軟らかくなるだけで、満足度という観点から考えると不十分だと思われます。このような患者には、やはり大腸運動を賦活化させる薬が必要になります。これまでは、ここで刺激性下剤を用いてきたわけですが、副作用や耐性の問題に注意する必要がある。ではどうする、といったときに新規作用機序をもつ便秘症治療薬による治療を検討します。私は、このような高齢の患者に対しては、生理的な正常状態に戻していくという観点から、胆汁酸の作用により大腸運動を促進させるグーフィス®(エロビキシバット)が選択肢の1つになると思います。
伊原先生:酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤は、人工的なものを追加して浸透圧の力で水を増やすという作用をもちます。一方で大腸内の胆汁酸濃度を増やすグーフィス®は、あくまでも生理的な作用を増強します。高齢者では胆汁酸の作用が弱くなっていますので(海外データ)3)、このような患者にグーフィス®を用いることは、確かに理にかなっていますね。
2)Ohkubo H, et al.: Digestion 2021; 102(2): 147-154
3)Einarsson K, et al.: N Engl J Med 1985; 313(5): 277-282

他疾患に併発した便秘症に対するアプローチ

中島先生:生理的な排便を促すということは特に高齢者にとって重要なことですね。では、他疾患に併発した便秘症に対するアプローチについてはどうでしょうか。糖尿病、パーキンソン病、心不全、腎不全、精神疾患など、様々な疾患において便秘症が併発しますが、そのような患者に対しても、基本は「便通異常症診療ガイドライン」にしたがって、まず浸透圧性下剤を使う、不十分であればグーフィス®などの新規作用機序をもつ便秘症治療薬を使う、刺激性下剤は頓用にとどめるということになりますでしょうか。
中島先生

慢性便秘症患者における便形状とQOLの関係

全体のJPAC-QOLスコアの平均値±SDは1.29±0.74であった。ブリストル便形状スケールに基づく便形状型別で比較すると、4型のグループは最もスコアが低く0.94±0.61であり、7型を除くすべての便形状型グループに対して有意に低かった。
ブリストル便形状スケールとJPAC-QOLスコアの関係
ブリストル便形状スケールとJPAC-QOLスコアの関係を示すグラフ
対象・方法 2018年に、慢性便秘症と診断され治療薬が処方されている日本人成人患者614例を対象としてオンラインアンケートを実施し、直近2週間のBristol便形状スケールに基づく便形状と、JPAC-QOLスコアを調査し、両者の関係を解析した。
Limitation
  • 便秘症の診断基準が患者間で異なっていた可能性がある。
  • QOLスコアに影響を与える可能性のある他の要因のデータが不足していたと考えられる。
  • Bristol便形状スケールスコアが1~5型の患者に対しては、治療薬の中断、減量についてのデータを得なかった。
2)Ohkubo H, et al.: Digestion 2021; 102(2): 147-154
眞部先生:他疾患に関しては、その疾患の治療に用いる薬との相互作用に注意することがまず重要です。他疾患の治療においてはどうしても外せない薬があり、用いようとする便秘症治療薬と相互作用があると苦慮しますので、その点がスムーズな便秘症治療薬がやはり使いやすいと考えます。
 それから他疾患に併発する便秘症に関しては、特に大腸の動きをよくする便秘症治療薬が重要になると思います。これらの観点から、私はグーフィス®が使いやすいと思っています。
中島先生:伊原先生はいかがですか。例えば、糖尿病の患者にはどのようにアプローチしますか。
伊原先生:糖尿病の患者も神経叢の機能が落ちて、高齢者と同様に大腸運動が低下していると認識していますので4)、浸透圧性下剤による水分量の調節だけでは難しく、やはり大腸を動かす働きをもつ便秘症治療薬が有用と考えています。
中島先生:私がよく経験する糖尿病の患者で、IBSではありませんが便秘と下痢を繰り返すような患者がいて治療に難渋することがあります。そのような患者についてはどうですか。
伊原先生
伊原先生:私の場合は、そのような患者に対してはまず便秘症を治すことに集中します。まず便秘症治療薬で正常便に近づけ、便の量を増やすなどして自然な排便を目指し、便秘と下痢の振れ幅を少なくしていくことを心がけています。うまくいかない患者も確かにいますが、満足する患者も多く手応えを感じています。

計画排便の有用性

中島先生::軽症程度の便秘症であれば酸化マグネシウムで十分治療の満足度が得られることが多いのですが、精神疾患、糖尿病、循環器疾患などに併発した便秘症については、たとえば腸管運動の低下などの病態を踏まえて新規作用機序をもつ便秘症治療薬へのスイッチや併用も考慮し、安全かつ患者の満足度を高める治療が必要になりますね。
 患者満足度につながる診療、治療のその他のアプローチとして、私は計画排便というものを提唱しています。便秘症の治療では、トイレにしっかり行くこともポイントです。というのは、便秘症の患者では便意が消失していることが多かったり、またタイミングが合わなかったりとなかなかトイレに行けない人が多い。そこで週末など時間を自由に使える日に、便秘症治療薬を飲んで何時間後ぐらいに便が出るかを計ってもらう。薬を飲んだら何時間後に排便があるのかがわかると、自分のライフスタイルにあわせて服薬時間を調節できますからね。私はこれを計画排便と呼んで実際の治療に取り入れていますがいかがでしょうか。
眞部先生:患者の中には朝、なかなか時間がなくてゆっくりトイレに行けない、あるいは日中、会議中にトイレに行きたくなって困っているという人がいます。そこで、この薬を飲んだら大体どれくらいで便が出るのかがわかれば計画的な排便ができる。つまり排便時間を推し量ることができるということも、満足度を高める重要なポイントであると思います。
眞部先生
伊原先生:私もそのように考えて、中島先生が提唱されている計画排便を実践していますが、排便姿勢の指導も重要だと思います。特に高齢者では腹筋や骨盤の筋力が落ちていますので、以前はできた排便が、本人が気付かないうちにできなくなっていることを経験します。そのような患者に対しては、理想的な排便姿勢を提示しながら指導をしています。

便意の重要性

中島先生:排便姿勢の指導も非常に重要ですね。最近、グーフィス®の服用により、排便までの時間がほぼ一定になるということが報告5)されていますが、いつトイレに行けばいいかわからない、という患者もいますね。そういう患者のキーポイントは便意ですね。便意がないからいつトイレに行けばいいかわからない。そのような患者にはどのように指導しますか。
伊原先生:新規作用機序をもつ便秘症治療薬の一つであるグーフィス®は、便意を回復させる作用が期待されていますね6)。便意回復にはグーフィス®を使うというのが一つの手であると思います。
 また、大腸が一番動くのは朝食後であり、朝食後に便意が最も起こりやすいと考えられますので、便意のない人には朝食後にトイレに行き、排便姿勢を整えるように指導しています。
中島先生:確かに朝食を摂るだけで改善する人がいますね。便秘症の患者が便意を復活させる過程では、便意が非常に微弱になっています。ちょっとトイレに行きたくなったけどしばらくしたらその気がなくなった、などですね。ですから、朝食後にゆったりしてスタンバイしておいて、少しでもトイレに行きたい気持ちが出てきたらさっと行ける、そのようなやり方で便意を徐々に回復させていくのがいいのではないかと思います。
眞部先生:便意は、便秘の有無だけでなく、便秘の重症度にも大きく関係しており、便秘の重症度が高い人は便意自体もかなり消失しているというデータが米国から報告(海外データ)7)されています。成人の慢性便秘症患者の23%に便意消失がみられるという報告(海外データ)8)もありますから、特に高齢者の慢性便秘症を治療する際には、およそ1/4の患者には便意消失があるという認識で治療すべきではないかと思います。
中島先生:それからいきみですよね。特に循環器疾患のある高齢者はトイレでいきませてはいけない。いきみが心血管イベントに直結する可能性がありますので。高齢の慢性便秘症患者の治療においては、トイレでのいきみに対して十分注意する必要がありますね。
4)山田英司, 中島淳: Pharma Medica 2017; 35(9): 21-25
5)Nakajima A, et al.: SAGE Open Med 2025; 13: 1-13[著者にEAファーマ株式会社よりアドバイザー料を受領している者、EAファーマ株式会社の社員が含まれる。当研究はEAファーマ株式会社、持田製薬株式会社の資金提供を受けて実施された。]
6)Manabe N, et al.: BMJ Open Gastroenterol 2023; 10: e001257[当研究はEAファーマ株式会社、持田製薬株式会社の支援にて行われた。著者にEAファーマ株式会社、持田製薬株式会社より謝礼を受領している者、EAファーマ株式会社、持田製薬株式会社の社員が含まれる。
7)Vollebregt PF, et al.: Am J Gastroenterol 2021; 116: 758-768
8)Burgell RE, Scott SM: J Neurogastroenterol Motil 2012; 18: 373-384

3.エビデンスから考える治療戦略

多領域にわたるグーフィス®のエビデンス報告

中島先生:「便通異常症診療ガイドライン」が発刊された2023年時点では、ルビプロストン、リナクロチドについてはある程度エビデンスが出ていましたが、2018年に上市されたグーフィス®についてはまだ十分とは言えない状況でした。しかしその後、今日のお話でも既にいくつか触れられていますが、グーフィス®の様々なエビデンスが報告されています。そこで、高齢者の便秘症、他疾患に併発した便秘症における、グーフィス®の有用性や安全性について、近年報告されたエビデンスをもとに検討していきたいと思います。
 グーフィス®は他剤、特に酸化マグネシウムからの切り替えに関して有効性が高く9)、満足度が高いという報告があります10)これまでは酸化マグネシウムで効果不十分の場合は刺激性下剤という流れだったのですが、グーフィス®が上市され、消化器内科だけでなく、循環器科、精神科等々の様々な領域の臨床現場に大きなインパクトを与えたのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
9)中島淳ら: 薬理と治療 2025; 53(9): 777-798
10)Kessoku T, et al.: Neurogastroenterol Motil 2025; 0: e70106[著者にEAファーマ株式会社より助成金を受領、またEAファーマ株式会社の顧問を務めている者が含まれる。]
グーフィス®が有するエビデンス(論文化されている主なもの)
グーフィス®が有するエビデンス(論文化されている主なもの))を示す表
★文献番号が青字のものは本文中に記載のある文献、黒字のものはフローチャート内に記載のある文献です。
眞部先生:他疾患に併発した便秘症は、その原因として、疾患そのものから生じる便秘症と治療薬による便秘症の2つの可能性がありますが、病態のベースとしては大腸通過時間の遅延が考えられます。また、便秘を併発する疾患の患者には高齢者が多いと考えられ、酸化マグネシウムが使えないケースも多いと思います。
 このようなことを考えると、セカンドラインの新規作用機序をもつ便秘症治療薬として、現在ルビプロストン、リナクロチド、そしてグーフィス®の3剤があるわけですが、この中で大腸の運動を賦活化させる作用をもつのはグーフィス®だけであり、これが近年の循環器、糖尿病、腎、透析などの領域におけるグーフィス®のエビデンスにつながっているのではないかと思います。
中島先生:パーキンソン病患者の便秘症に対するエビデンスの報告11)もありますね。特に注目すべきは患者のQOLに影響を与えたというデータ(参考情報)ですね。スティグマ、便秘に対する羞恥心にも訴求して満足度が上がっているということもポイントですね。
 それから、宿便を溜めて摘便をしていた人がグーフィス®の投与により摘便、浣腸が減ったという報告(参考情報)12)もあります。例えば、入院している認知症の患者の便秘症というのは摘便、浣腸などもありなかなか大変なわけですが、グーフィス®を使うと摘便、浣腸が減り、看護師の負担も減るのではないかということも考えられますね。
伊原先生:看護師の浣腸の回数を減らすことができた、というのはいいデータですね。看護師の負担を減らす可能性があるという意味では、重要な知見、意義のあることだと思います。直腸エコーについてもアルゴリズムがつくられていますが13)、この直腸エコーも含めると、直腸エコーは看護師もできますので、それによって不必要な浣腸を減らすことが期待できますね。
11)Hatano T, et al.: Mov Disord Clin Pract 2024; 11(4): 352-362
12)福原真由美ら:精神科看護 2022;49(6):49-59
13)Kessoku T, Nakajima A, et al.: Diagnostics 2024; 14: 1510

Triple actionのアドバンテージ

中島先生:新規作用機序をもつ便秘症治療薬、3剤の使い分けについてはいかがでしょうか。
眞部先生:便意は、他の薬にはない、グーフィス®のアドバンテージですね。江口先生の治療抵抗性の便秘症患者に対してグーフィス®が有効であったというデータ14)をみても、グーフィス®は便を軟らかくする作用がある、大腸の運動をよくする作用がある、加えて便意を促進する作用がある、つまりTriple actionで作用し、単一の作用をもつ薬で難治であった便秘症を改善していますので、特に便意の促進という作用は大きいのではないかと思います。
14)Eguchi T, et al.: JGH Open 2024; 8: e70019
グーフィス®の胆汁酸を介した3つの作用(Triple action)
グーフィス®は、IBAT♯1を阻害して大腸への胆汁酸の流入を増加させる※1~※3。増加した胆汁酸の作用によって水分分泌促進、大腸運動促進、便意の促進♯2といった排便促進作用がもたらされる※1,※4~※8
♯1:Ileal Bile Acid Transporter:胆汁酸トランスポーター
♯2:直腸伸展刺激への感度を高める
グーフィス®の胆汁酸を介した3つの作用(Triple action)を示す図
※1 Acosta A, Camilleri M: Ther Adv Gastroenterol 2014; 7(4): 167-175(著者のCamilleriはエロビキシバットの創薬会社であるアルビレオ社より研究助成金を受領している。)
※2 EAファーマ株式会社: 社内資料(胆汁酸トランスポーターに対する作用)
※3 EAファーマ株式会社: 社内資料(胆汁酸吸収に対する作用)
※4 Mekhjian HS, et al.: J Clin Invest 1971; 50: 1569-1577
※5 Mitchell WD, et al.: Gut 1973; 14(5): 348-353
※6 Bunnett NW: J Physiol 2014; 592: 2943-2950
※7 眞部紀明, 春間賢: 肝胆膵 2018; 77(1): 65-69
※8 Bampton PA, et al.: Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol2002; 282(3): G443-G449
中島先生:今までは、便意がない患者に対しては坐剤や浣腸を使うというアプローチしかなかったわけですが、グーフィス®が新たな一つの選択肢となった。これは確かに大きいですね。
伊原先生:やはり、便意があってトイレに行き完全自発排便になるというのがQOLが一番いいわけですから、便意の改善、促進は重要ですね。
 浸透圧性下剤を使って便は確かに出るが便意がなくて困っている、何も感じなくてアッと思ったらもう間に合わなくて便失禁してしまう、そういうことで困っている患者がいます。そういう患者に対してグーフィス®にスイッチすると、やはり本来の便意を戻して排便させる力を持っていますから、いい感触を得ています。
眞部先生
眞部先生:便意の促進に関しては、グーフィス®にしかない作用と考えていいのではないかと思います。高齢者で便意のない患者、あるいは大腸運動も低下してなかなか便が出ない患者、直腸エコーで便は貯留しているが軟らかい便の貯留である状態の患者といった病態評価ができれば、このような患者に対してはグーフィス®を使うというのがよいと思います。
中島先生:そうですね、病態に応じた治療がいいですよね。「便通異常症診療ガイドライン」にもそのように記載されていますから。
伊原先生:「便通異常症診療ガイドライン」ができた2023年時点ではエビデンスが少なかったわけですが、その後、新規作用機序をもつ便秘症治療薬の3剤についての有効な点、副作用などいろいろなことがわかってきていますので、それらのエビデンスに基づいて使い分けていくということになると思います。
 病態評価については、国内では放射線不透過マーカーを便秘症診療に用いることが依然として保険収載となっていませんので、直腸エコーやCT、単純腹部X線検査でもいいかもしれません。それらの代替法で工夫して評価して、新規作用機序をもつ便秘症治療薬の3剤を使い分けていく。保医発の注意喚起がありますから現状では勝手なことは言えませんが、今後は病態に応じてこれらがファーストチョイスになるかもしれない。次のガイドラインではもう少し、何らかのモダリティを用いて病態評価を行い、これに応じて3剤を活用できるようなフローチャートが構築できればいいと考えています。
伊原先生
中島先生:特にグーフィス®のエビデンスの多くは「便通異常症診療ガイドライン」が出た後に報告されていますので、これらをどう反映するか、次のガイドラインでの課題ですね。
作用からみた下剤のポジショニング
作用からみた下剤のポジショニングを示す図
13)Kessoku T, Nakajima A, et al.: Diagnostic 2024; 14: 1510 を基に中島 淳先生作成

各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

4.FRQ5-1を考えるヒント ~新たな治療フローチャートと今後の展望

グーフィス®が適する患者像とは?

中島先生
中島先生:「便通異常症診療ガイドライン」のFRQ5-1では、新規作用機序をもつ便秘症治療薬、すなわち、“ルビプロストン・リナクロチド・エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は何か?”という問いに対して、“これらを用いるべき臨床的特徴は明らかになっておらず、今後の検討が必要と考えられる”としています。次のガイドラインに向けて、この問題を少し考えてみたいと思います。新しいフローチャートとしてどのようなものが考えられるか、ということですね。
 ここに一つの提案として、グーフィス®についてのフローチャートの案を考えてみました(下図)。
 まず酸化マグネシウムを使うというのはいいと思います。
但し、高齢者や腎機能低下、PPIやV.D3などを併用している場合には、酸化マグネシウムの効果減弱、高マグネシウム血症のリスクが高まります15)ので、血清マグネシウム値を定期的に確認することが重要です。その一方で、「便通異常症診療ガイドライン」発刊後に出た様々なエビデンス、あるいは本日の話を振りかえると、グーフィス®は特に高齢の慢性便秘症患者に適した薬ではないかと考えられます。したがって、この案にあるような酸化マグネシウムの安全性、有効性について問題があればグーフィス®に切り替えるというのが現実的ではないかと思われます。
 安全性については、酸化マグネシウムを1g/日以上服用、eGFRが60mL/分/1.73m2未満、PPIやV.D3を服用している患者は高マグネシウム血症のリスクを高めるため15)〜17)、また、PPIを服用している人は酸化マグネシウムの効果が低下しますので15)、これらに該当する患者はグーフィス®に切り替える。有効性については、便意がない、排便回数や便形状が十分に正常化しない、いきみ、残便感、腹部膨満感、排便習慣に不満のある人はグーフィス®が適する。このような考えをまとめたものとなっていますが、いかがでしょうか。
15)日本老年医学会 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン作成委員会 編, 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025, メジカルビュー社, 2025, p.128
16)Wakai E, et al.:JPHCS 2019; 5: 4
17)中村忠博ら:日腎薬誌 2013; 2(1): 3-9
治療フローチャート
※腎機能低下患者への酸化マグネシウムの投与は避ける ※治療効果が不十分な場合は、上皮機能変容薬や補助・代替治療薬の使用を検討する(刺激性下剤はオンデマンド)

各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

監修:中島 淳 先生

高齢者は若年者に比して、結腸通過時間の有意な延長が認められました(p=0.0008、重回帰分析)。

グラフ/縦軸が平均結腸通過時間、横軸が高齢者、若年者

高齢者と若年者での結腸通過時間

Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159より作成
表/高齢者および若年者における消化管運動の評価結果と年齢、性差、BMIおよび喫煙が消化管運動に与える影響
対象 デンマークの健康高齢者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢81歳[74-85歳]、平均body mass index 25.0kg/m2[21.6-29.7kg/m2])と健康若年者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢24歳[20-30歳]、平均body mass index 22.4kg/m2[18.9-26.5kg/m2 ])
方法 朝に、ラベルマーカーを含む1600-kJのリキッドおよび固形食(80gのパン、120gのオムレツ、200gの水)を10分で摂取後、ラベルマーカーが小腸から検出されなくなるまで、30分間隔でガンマカメラにて確認した。翌日からは、24時間毎にラベルマーカーが結腸から排出するまでガンマカメラで確認し、結腸通過時間を測定した。なお、水に111In-DTPAを加え、99mTcはオムレツに加え、ラベルマーカーとした。
Limitation 当試験のlimitationとして、身体活動レベル、食習慣、心理的要因のばらつきが、結果に影響を与えた可能性があること、若年女性の胃排出評価が月経周期を考慮した時期に行われなかったことなどが挙げられる。
Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159

グーフィス®による便秘症治療 〜今後の課題

眞部先生:これから先、高齢化がさらに進み、例えばCKDを潜在的に持っている人などの割合も今以上に高くなっていきますので、酸化マグネシウムを使いにくい時代になっていくと思います。そのような意味では、安全性や、腸管運動低下や便意の低下に対する有効性を考えると高齢者にはグーフィス®をファーストラインで検討していいのではないかと思いました。
 一方で、まずモダリティによる病態評価が入って、それを踏まえてグーフィス®を開始するというのが本来の医療であると思います。まだ完全に広まっていませんが、直腸エコーなどは便秘症の病態評価のモダリティになりえると思います。
 また、病態評価ができれば、患者に画像をみせて治療が効いているかどうか、便の状態がどうなっているのかなどをフィードバックして、患者のモチベーションやアドヒアランスの向上にもつながるのではないでしょうか。
中島先生:新たなモダリティを駆使して病態を分類、診断し、これに基づいた適切な治療を行う。そのためにいかに簡便な病態評価を普及させるか。これが課題ですね。
伊原先生:酸化マグネシウムが無効で、便意消失、大腸通過時間遅延型ということであればグーフィス®を選択するということは多くの賛同を得られると思います。
中島先生::私自身も重宝していますが、グーフィス®と少量の酸化マグネシウムの併用という選択肢もあっていいかもしれませんね。これについてはまた検討していきたいと思います。
 高齢化社会で、消化器内科の医師のみならずあらゆる診療科で便秘症をみなくてはいけない時代になってきました。高齢者になりますと様々な合併症が併存し、服用する薬も多くなり薬剤同士の相互作用にも注意しなければならない。
 これから先、便秘症患者は増える一方で減ることはないと思います。たかが便秘とは言っても、腸管穿孔や心血管イベントにより死亡する患者も増えています。消化器内科も含め、あらゆる診療科の先生方に今一度便秘診療を見直し、患者に寄り添った診療ができるようにしていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
伊原先生/中島先生/眞部先生

2025年12月作成

便秘診療のコツ

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