統合失調症の治療におけるベンゾジアゼピン系薬剤の処方と下剤使用のリスクの関係

Ochi S, et al.: Neuropharmacology Reports 2025; 45: e12499
【監修】国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部 部長 橋本 亮太 先生
便秘症は、統合失調症の治療の最もよく知られた副作用であり、統合失調症患者の便秘症罹患率は30%を超えると報告されています(海外データを含む)1,2)
統合失調症における便秘症は抗コリン作用を示す特定の抗精神病薬や抗コリン薬と関連があることを示唆したいくつかの先行研究(海外データ)1-5)もありますが、アリピプラゾールやオランザピンについては便秘症との関連がみられなかった(海外データ)6)など、研究の結果には矛盾がみられたり、一貫性がなかったりといった問題や課題がありました。
統合失調症における薬理学と便秘症の関連性を明らかにするためには、抗精神病薬や抗コリン薬以外の、例えばベンゾジアゼピン系薬剤等も含む他の向精神薬との関連性についても調査する必要があります。そこで、向精神薬と便秘症の関係を明らかにするため、統合失調症患者の退院時における様々な向精神薬と下剤処方の特徴を調査しました。
1)Virtanen T, et al.: Nord J Psychiatry 2017; 71(1): 48-54
2)Koizumi T, et al.: Gen Hosp Psychiatry 2013; 35(6): 649-652
3)Lin CH, et al.: Eur Neuropsychopharmacol 2021; 43: 139-146
4)Chen HK, et al.: Schizophr Res 2018; 195: 237-244
5)Lin CH, et al.: Psychogeriatrics 2022; 22(5): 718-727
6)Bai Y, et al.: J Affect Disord 2020; 261: 259-270

調査概要

対象 国内8施設(獨協医科大学、愛媛大学、福岡大学、自治医科大学、東京慈恵会医科大学、北里大学、杏林大学、東京大学)において統合失調症と診断され、2020年4月から9月までの間に退院した139例
方法 患者の診療録から退院時の情報(年齢、性別、下剤の処方、処方された向精神薬の種類、投与量、退院時の病棟の種類[開放病棟または閉鎖病棟])等を入手した。
※抗精神病薬、抗うつ薬、抗コリン薬、睡眠薬、抗不安薬、気分安定薬、抗てんかん薬、その他を含む
患者を下剤処方群(n=62)と下剤非処方群(n=77)に分け、所見や、両群の患者に処方された抗精神病薬、抗コリン薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬および催眠薬)、気分安定薬の処方率を比較した。なお、当研究では、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンを気分安定薬と定義した。
向精神薬の投与量はクロルプロマジン換算量(CP)、イミプラミン換算量(IP)、ビペリデン換算量(BP)、ジアゼパム換算量(DP)などの向精神薬換算量に換算し、処方量を比較した。
次に、下剤使用の影響を明らかにするため、退院時の下剤使用の有無をロジスティック回帰分析の共変量として、性別、年齢、退院時の病棟の種類[開放病棟または閉鎖病棟]、および抗精神病薬、クロザピン、抗コリン薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、気分安定薬の処方状況を比較した。
ダミー変数として以下を定義した:性別:男性=1、女性=2;病棟タイプ:開放病棟=1、閉鎖病棟=2;抗精神病薬療法:単剤療法=1、多剤併用=2;向精神薬処方:処方なし=0、処方あり=1。
解析方法
  • カテゴリー変数についてはχ2検定、連続変数、順序変数についてはMann-Whitney U検定を用いて、2群間の比較を行った。
  • ロジスティック回帰モデルを用いて、便秘症のリスクについてのオッズ比、95%CIを求めた。
  • p<0.00263(0.05/19)を有意とし、カテゴリー間の多重比較に対する事後解析にはBonferroni法による補正を適用した。また、単変量ロジスティック回帰モデルではp<.00263を、多重ロジスティック回帰モデルではp<0.05を有意と定義した。
Limitation
  • 対象患者は全員が大学病院から退院した者であり、選択バイアスがあったと考えられる。
  • サンプルサイズが相対的に小さかった。
  • 退院時のデータのみを入手しただけであったため、向精神薬の使用期間などについては調査できなかった。
  • 後ろ向き観察研究であった。
  • 不要な下剤を長期間投与していた可能性があり、そのような場合は、下剤の使用は便秘症の指標とならない。また、下剤が便秘症に対して適切に用いられたかどうかを区別することはできなかった。
【各ステージにおける便秘症の憂慮】
①向精神薬の副作用、ストレス、運動不足等により腸管運動が低下し、便秘症が多発する4~6)
②便秘症状を訴えられないことによる治療開始の遅延、刺激性下剤の連用・摘便、浣腸処置による患者や看護スタッフの負担が増加する(海外データを含む)8~11)
③上記治療による便秘症の難治化、便秘症自体が精神疾患を更に悪化させる可能性がある(海外データを含む)12),13)
精神疾患患者を取り巻く様々な要因で、便秘症状悪化のサイクルに陥り、イレウスの発生に繋がる恐れがある

●各薬剤の使用にあたっては、電子添文を確認してください。

結果

退院時の患者背景
※性別、退院時の病棟の種類についてはχ2検定、年齢についてはMann-Whitney U検定を用いた。
Ochi S, et al.: Neuropharmacology Reports 2025; 45: e12499
退院時に処方された向精神薬の処方率
ベンゾジアゼピン系薬剤の処方率は、下剤処方群66.1%、下剤非処方群39.0%であり、両群間に有意差が認められた(p=0.0014、χ2検定)。
Ochi S, et al.: Neuropharmacology Reports 2025; 45: e12499より作図
退院時の下剤処方についての多変量ロジスティック回帰モデル
多変量ロジスティック回帰分析の結果、ベンゾジアゼピン系薬剤の処方は、下剤の使用と有意な関係が認められた(OR:3.059、95%CI:1.523-6.144、p=0.002、多変量ロジスティック回帰分析)。
単変量ロジスティック回帰モデルではp<0.00263、多変量ロジスティック回帰モデルではp<0.05を有意差ありとした。
ダミー変数として以下を定義した:性別:男性=1、女性=2;病棟タイプ:開放病棟=1、閉鎖病棟=2;抗精神病薬療法:単剤療法=1、多剤併用=2;向精神薬処方:処方なし=0、処方あり=1。
Ochi S, et al.: Neuropharmacology Reports 2025; 45: e12499

高齢者は若年者に比して、結腸通過時間の有意な延長が認められました(p=0.0008、重回帰分析)。

グラフ/縦軸が平均結腸通過時間、横軸が高齢者、若年者

高齢者と若年者での結腸通過時間

Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159より作成
表/高齢者および若年者における消化管運動の評価結果と年齢、性差、BMIおよび喫煙が消化管運動に与える影響
対象 デンマークの健康高齢者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢81歳[74-85歳]、平均body mass index 25.0kg/m2[21.6-29.7kg/m2])と健康若年者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢24歳[20-30歳]、平均body mass index 22.4kg/m2[18.9-26.5kg/m2 ])
方法 朝に、ラベルマーカーを含む1600-kJのリキッドおよび固形食(80gのパン、120gのオムレツ、200gの水)を10分で摂取後、ラベルマーカーが小腸から検出されなくなるまで、30分間隔でガンマカメラにて確認した。翌日からは、24時間毎にラベルマーカーが結腸から排出するまでガンマカメラで確認し、結腸通過時間を測定した。なお、水に111In-DTPAを加え、99mTcはオムレツに加え、ラベルマーカーとした。
Limitation 当試験のlimitationとして、身体活動レベル、食習慣、心理的要因のばらつきが、結果に影響を与えた可能性があること、若年女性の胃排出評価が月経周期を考慮した時期に行われなかったことなどが挙げられる。
Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159

監修者コメント

ベンゾジアゼピン系薬剤の投与量と下剤の使用との関連性については、精神科救急病棟の入院患者を対象とした山田らの研究により既に報告7)されており、ベンゾジアゼピン系薬剤の抗コリン作用が便秘症の出現に促進的に作用する可能性があることが指摘されています。
当研究でも、統合失調症患者における下剤の使用とベンゾジアゼピン系薬剤の処方が有意な関係(OR:3.059、95%CI:1.523-6.144、p=0.002、多変量ロジスティック回帰分析)にあることが示されました。当研究の結果からも、ベンゾジアゼピン系薬剤の処方と便秘症および下剤の使用とに関連性があること、そして、統合失調症治療のためにベンゾジアゼピン系薬剤を処方する際には、慎重な検討を行う必要があることが示唆されたと考えます。
統合失調症患者の便秘症は、抗コリン作用だけが直接的に作用するのではなく、他の薬剤の作用も含め、より複雑なメカニズムが関与している可能性があります。
便秘症や下剤の使用が死亡率に関与するという報告8)に加え、ベンゾジアゼピン系薬剤への高曝露が統合失調症患者の死亡率に関与するという報告(海外データ)9)もあります。これからは、統合失調症患者の便秘症に気付いた場合は、抗精神病薬や抗コリン薬だけでなく、ベンゾジアゼピン系薬剤の処方についても検討し、ベンゾジアゼピン系薬剤が処方されていれば減量や中止も考慮していく必要があるのではないかと考えます。

7)山田浩樹ら: 精神神経学雑誌 2023; 125(10): 844-859
8)Sumida K, et al.: Atherosclerosis 2019; 281: 114-120
9)Tiihonen J, et al.: Am J Psychiatry 2016; 173(6): 600-606

2026年6月作成

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