便秘症は、心筋梗塞患者の心不全による再入院に影響を及ぼす可能性があります1)

1)Namiuchi S, et al.: BMC Cardiovasc Disord 2025; 25: 410
【監修】仙台市医療センター 仙台オープン病院 循環器内科 主任部長 浪打 成人 先生
心筋梗塞後の患者さんは心不全発症リスクが高く、予後に対する影響が大きいことから、心筋梗塞後の心不全を予防することは非常に重要な課題となっています。私たちは、急性心不全で入院した患者さんが便秘症であれば心不全再入院のリスクが高いこと、心不全患者さんでは便秘症の管理が重要となる可能性があること、を報告していますが2)、便秘症と心筋梗塞後の予後との関連を検討した研究はこれまでにありませんでした。そのため便秘症と急性心筋梗塞後の予後との関係を、特に心不全による入院に焦点を当てて調査しました。
2)Namiuchi S, et al.: ESC Heart Fail 2024; 11: 819-825

試験概要

対象・方法 2012年1月~2023年12月に当院に急性心筋梗塞で入院した連続1,429症例のうち、院内死亡された105症例を除外した1,324症例(平均年齢:68±14歳、男性:76%)を対象とした。退院時に1種類以上の定期便秘薬が処方されている症例を便秘症あり群(n=253)、処方されていない症例を便秘症なし群(n=1,071)に分け、退院後の転帰を後ろ向きに調査した。
評価項目 退院後の全死亡、心不全再入院
解析計画 心筋梗塞後の心不全発症イベントは退院後6ヶ月間に多い3)ことから、半年の時点をランドマークに設定し、退院から0~0.5年、0.5~3.0年の期間別にKaplan-Meier解析を行った。更に年齢、性別、心筋梗塞既往、高血圧、糖尿病、心房細動、eGFR、利尿剤内服の8因子で補正したCox比例ハザード解析を施行、および同8因子による傾向スコアマッチングにより249ペアを抽出して比較した。
3)Sulo G, et al.: J Am Heart Assoc 2016; 5: e002667
Limitation 単施設での後ろ向き観察研究であること、サンプルサイズが比較的小さいこと、便秘症の定義が便秘薬の定期服用であること、便秘薬の服用期間が不明であることなどがあげられる。
【各ステージにおける便秘症の憂慮】
①向精神薬の副作用、ストレス、運動不足等により腸管運動が低下し、便秘症が多発する4~6)
②便秘症状を訴えられないことによる治療開始の遅延、刺激性下剤の連用・摘便、浣腸処置による患者や看護スタッフの負担が増加する(海外データを含む)8~11)
③上記治療による便秘症の難治化、便秘症自体が精神疾患を更に悪化させる可能性がある(海外データを含む)12),13)
精神疾患患者を取り巻く様々な要因で、便秘症状悪化のサイクルに陥り、イレウスの発生に繋がる恐れがある

●各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

結果

心筋梗塞後の心不全入院率は、退院から0~0.5年で便秘症あり群7.8%、なし群2.1%(Log-rank:p<0.0001)、0.5~3.0年では便秘症あり群4.8%、なし群3.9%(Log-rank: p=0.17)であった。
補正後のCox比例ハザード解析では0~0.5年の期間で便秘症なし群に比較して便秘症あり群の心不全入院リスクは2.12倍(p=0.032)と有意に高かったが、0.5~3.0年では有意差を認めなかった(p=0.63)。傾向スコアマッチング後のKaplan-Meier解析においても心不全入院率は0~0.5年で便秘症あり群8.0%、なし群3.2%(Log-rank: p=0.030)、0.5~3.0年では有意差なしと同様の結果であった(Log-rank: p=0.98)。
全死亡率については補正後の解析でいずれの期間においても2群間に有意差は認めなかった(0~0.5年 Log-rank: p=0.87、0.5~3.0年Log-rank: p=0.92)
Namiuchi S, et al.: BMC Cardiovasc Disord 2025; 25: 410 より改変

高齢者は若年者に比して、結腸通過時間の有意な延長が認められました(p=0.0008、重回帰分析)。

グラフ/縦軸が平均結腸通過時間、横軸が高齢者、若年者

高齢者と若年者での結腸通過時間

Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159より作成
表/高齢者および若年者における消化管運動の評価結果と年齢、性差、BMIおよび喫煙が消化管運動に与える影響
対象 デンマークの健康高齢者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢81歳[74-85歳]、平均body mass index 25.0kg/m2[21.6-29.7kg/m2])と健康若年者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢24歳[20-30歳]、平均body mass index 22.4kg/m2[18.9-26.5kg/m2 ])
方法 朝に、ラベルマーカーを含む1600-kJのリキッドおよび固形食(80gのパン、120gのオムレツ、200gの水)を10分で摂取後、ラベルマーカーが小腸から検出されなくなるまで、30分間隔でガンマカメラにて確認した。翌日からは、24時間毎にラベルマーカーが結腸から排出するまでガンマカメラで確認し、結腸通過時間を測定した。なお、水に111In-DTPAを加え、99mTcはオムレツに加え、ラベルマーカーとした。
Limitation 当試験のlimitationとして、身体活動レベル、食習慣、心理的要因のばらつきが、結果に影響を与えた可能性があること、若年女性の胃排出評価が月経周期を考慮した時期に行われなかったことなどが挙げられる。
Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159

監修者コメント

本研究の結果からは、便秘症が心筋梗塞後の心不全入院リスクを高める可能性があることが示唆されました。排便時のいきみによる血圧上昇が繰り返されることが心不全発症の原因の一つであった可能性が考えられます。特に退院から半年という期間で便秘症の患者さんの心不全入院が多くみられたのは、心筋梗塞による心機能低下を代償しきれていない脆弱な時期にいきみの悪影響を受けやすかったということかもしれません。心筋梗塞後の心不全予防のためには既に実臨床において様々な取り組みがなされていますが、生活習慣改善の一つとして便秘症のマネジメントにも目を向けていく必要があるのではないかと思われます。

2025年改訂版 心不全診療ガイドラインに、はじめて「便秘」に関する記載が設けられました4)

3.2.5 便秘

利尿薬の服用による慢性的な水分不足と腸管浮腫,低灌流に伴う腸蠕動の低下などから,便秘は心不全患者によくみられる症状である.便秘の原因となる疾患がない機能性便秘症に関しては,まずは生活習慣の改善と食事療法が推奨されている.キウイフルーツ,プルーン,オオバコなどの摂取が便秘改善に効果があるといわれており,運動療法も有効である.それでも便秘が解消しない場合は,浸透圧下剤,上皮機能変容薬,胆汁酸トランスポーター阻害薬,刺激性下剤などの薬物療法を検討する.浸透圧下剤の1つであるマグネシウム製剤は,高齢者や腎機能低下の患者にはマグネシウムの血中濃度が上昇しすぎないよう注意が必要である.
4)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 2025年改訂版心不全診療ガイドライン, 第12章 緩和ケア, 3 心不全における症状と対処法, 3.2.5 便秘 pp.190-191(2025年8月27日更新)
[https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf 2025年8月27日閲覧]より引用

●各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

慢性便秘症は、生存率に影響する可能性があります5)
~便秘症の有無による生存率の比較~(海外データ)

米国で3,933例を対象に行われた、機能性消化管障害の有無と生存率との関連を調べた調査では、慢性便秘症を有する人は、そうでない人よりも生存率が低いという結果が得られました。
慢性便秘症と生存率
Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832
対象・方法 1988~1993年に、米国ミネソタ州オルムステッド郡に住む20歳以上の5,262例にIBS、慢性便秘症、慢性下痢症、ディスペプシア、及び腹痛の診断のため、消化器症状についてアンケート調査(BDQ:the original Bowel Disease Questionnaire)を実施した。アンケートに回答した4,176例より不適格者を除いた3,933例を対象として、2008年までの15年間、生存状況を行政の死亡記録によって確認し、機能性消化管障害と生存率の関係を調査した。
結果 各機能性消化管障害の有無と生存率の関係を、単変量及び調整ハザード比を用いた比例ハザードモデルにて評価したところ、IBS(HR=1.06, 95%CI:0.86‒1.32)、慢性下痢症(HR=1.03, 95%CI:0.90‒1.19)、ディスペプシア(HR=1.08, 95%CI:0.58‒2.02)、腹痛(HR=1.09, 95%CI:0.92‒1.30)については関連が認められなかったが、慢性便秘症については関連が認められ、慢性便秘症患者の生存率は、慢性便秘症ではない人に比べ生存率が低かった(HR=1.23, 95%CI:1.07‒1.42、チャールソン併存疾患指数による調整後のHR=1.19, 95%CI:1.03‒1.37)。
Kaplan-Meier推定による調査開始から10年経過時の生存率は、慢性便秘症あり:73%(95%CI:69-76)、慢性便秘症なし:85%(95%CI:84-86)であった。
Limitation 当研究の対象者はMayo Clinicで治療を受けた者に限定されており、集団の約90%が白人であったことから、結果は他の民族集団に当てはまらない可能性がある。また、測定バイアスが結果に影響した可能性がある。
5)Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832

排便による収縮期血圧の変化6)

高齢者は、排便時の「いきみ」によって血圧が上昇しやすい
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赤澤寿美ほか: 自律神経 2000; 37(3): 431-439より作図
対象・方法 療養型病棟に入院中の患者と外来通院患者から76~98歳の被験者22例、比較対照群として19~26歳の若年健常者10例を選択し、夏季4ヵ月間に、非観血的携帯型自動血圧計を使用して、オシロメトリック法により30分間隔で24時間血圧を測定した。
結果 排便による収縮期血圧の変動は、高齢者では、排便直前133.6±19.5mmHg、排便時147.6±20.5mmHg、排便30分後143.4±17.4mmHg、若年者では、排便直前118.0±20.4mmHg、排便時116.6±18.5mmHg、排便30分後111.6±19.1mmHgであり、排便時と排便30分後は、高齢者は若年者に比べ有意な高値を示した(いずれもp<0.05、t検定)。
Limitation 当研究では排便時の血圧の変化を検討したが、高齢者は一般に複数の疾患を持つことが多く、血圧変動には、年齢、日常生活動作、睡眠覚醒リズム、疾患などの要素が混在し、結果に影響を及ぼしていることを考慮する必要がある。
6)赤澤寿美ほか: 自律神経 2000; 37(3): 431-439

2026年6月作成

便秘診療のコツ

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