便秘症が急性非代償性心不全患者の生存率に及ぼす影響[Kochi YOSACOI Study]

【監修】名古屋市立大学 大学院薬学研究科/薬学部/臨床薬学分野/臨床薬学教育研究センター 講師 石田 智滉 先生
高知大学医学部 老年病・循環器内科学講座 教授 北岡 裕章 先生
高知大学医学部附属病院薬剤部 教授・薬剤部長 浜田 幸宏 先生
心不全患者は、便秘症の合併により、生存率が低くなる可能性があります1)
~急性非代償性心不全患者を対象とした、便秘症の有無による生存率の比較~

国内の急性非代償性心不全患者715例について便秘症合併の有無別に生存率を比較した調査では、入院時に便秘症を合併していた患者は、合併していない患者よりも全体の生存率が低く、また心血管疾患に対する生存率も低かったという結果が得られました。
1)Ishida T, et al.: Front Cardiovasc Med 2024; 11: 1470216

試験概要

対象・方法 2017年5月~2019年12月までの、高知県における急性非代償性心不全による入院患者1,061例を登録した高知急性非代償性心不全レジストリ(KochiYOSACOI Study)より、退院までに死亡した患者30例、退院時のデータ欠損がある患者316例を除外した残りの715例のデータを解析対象とし、退院から2年以内の生存率を得るため2021年までフォローアップした。
入院前から退院まで下剤を継続して服用していた患者を便秘症合併とし、患者を便秘症合併群と便秘症非合併群に分けた。患者背景を傾向スコアマッチング法によりマッチさせ両群104例とし、退院後2年以内の全体の生存率、心血管疾患に対する生存率をlog-rank検定により比較した。
Limitation 傾向スコアマッチングではすべての交絡因子を除外できないので、選択バイアスが誘発された可能性がある。便秘に関連する症状については包括的に評価していない。また、服用した便秘症治療薬は患者間で異なっており、これらの選択が心不全の予後に及ぼす影響については明らかにしていない。便秘症や心不全の重症度に関与すると考えられる、患者の身体活動や食習慣に関する背景については調査していない。便秘症の重症度については評価していない。QOLに対する便秘症の影響については調査していない。
【各ステージにおける便秘症の憂慮】
①向精神薬の副作用、ストレス、運動不足等により腸管運動が低下し、便秘症が多発する4~6)
②便秘症状を訴えられないことによる治療開始の遅延、刺激性下剤の連用・摘便、浣腸処置による患者や看護スタッフの負担が増加する(海外データを含む)8~11)
③上記治療による便秘症の難治化、便秘症自体が精神疾患を更に悪化させる可能性がある(海外データを含む)12),13)
精神疾患患者を取り巻く様々な要因で、便秘症状悪化のサイクルに陥り、イレウスの発生に繋がる恐れがある

結果

便秘症合併群、便秘症非合併群両群の主な患者背景は下表の通りであった。加齢は心不全、便秘双方のリスクファクターであるという報告(海外データ)2)、また、利尿薬の使用は便秘を悪化させるという報告(海外データ)3)もあるが、傾向スコアマッチング法によりマッチさせた両群の年齢、ループ利尿薬、トルバプタンの使用についての標準化差はそれぞれ0.040、0.092、0.007であった。
2)Corella D, et al.: Ageing Res Rev 2014; 18: 53-73
3) Mullens W, et al.: Eur J Heart Fail 2019; 21: 13-155

患者背景

※年齢についてはMann-Whitney U検定、それ以外はFisher’s正確確率検定による。
1)Ishida T, et al.: Front Cardiovasc Med 2024; 11: 1470216より作表
便秘症合併群は、便秘症非合併群に比べ、退院後2年以内の全体の生存率が有意に低く(p=0.023、log-rank検定)、心血管疾患に対する生存率も有意に低かった(p=0.043、log-rank検定)
  • 全体の生存率

    全体の生存率

    1)Ishida T, et al.: Front Cardiovasc Med 2024; 11: 1470216
  • 心血管疾患に対する生存率

    心血管疾患に対する生存率

    1)Ishida T, et al.: Front Cardiovasc Med 2024; 11: 1470216

●各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。

高齢者は若年者に比して、結腸通過時間の有意な延長が認められました(p=0.0008、重回帰分析)。

グラフ/縦軸が平均結腸通過時間、横軸が高齢者、若年者

高齢者と若年者での結腸通過時間

Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159より作成
表/高齢者および若年者における消化管運動の評価結果と年齢、性差、BMIおよび喫煙が消化管運動に与える影響
対象 デンマークの健康高齢者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢81歳[74-85歳]、平均body mass index 25.0kg/m2[21.6-29.7kg/m2])と健康若年者16例( 男性8例、女性8例、平均年齢24歳[20-30歳]、平均body mass index 22.4kg/m2[18.9-26.5kg/m2 ])
方法 朝に、ラベルマーカーを含む1600-kJのリキッドおよび固形食(80gのパン、120gのオムレツ、200gの水)を10分で摂取後、ラベルマーカーが小腸から検出されなくなるまで、30分間隔でガンマカメラにて確認した。翌日からは、24時間毎にラベルマーカーが結腸から排出するまでガンマカメラで確認し、結腸通過時間を測定した。なお、水に111In-DTPAを加え、99mTcはオムレツに加え、ラベルマーカーとした。
Limitation 当試験のlimitationとして、身体活動レベル、食習慣、心理的要因のばらつきが、結果に影響を与えた可能性があること、若年女性の胃排出評価が月経周期を考慮した時期に行われなかったことなどが挙げられる。
Madsen JL, et al.: Age and Ageing 2004; 33(2): 154-159

2025年改訂版 心不全診療ガイドラインに、はじめて「便秘」に関する記載が設けられました4)

3.2.5 便秘

利尿薬の服用による慢性的な水分不足と腸管浮腫,低灌流に伴う腸蠕動の低下などから,便秘は心不全患者によくみられる症状である.便秘の原因となる疾患がない機能性便秘症に関しては,まずは生活習慣の改善と食事療法が推奨されている.キウイフルーツ,プルーン,オオバコなどの摂取が便秘改善に効果があるといわれており,運動療法も有効である.それでも便秘が解消しない場合は,浸透圧下剤,上皮機能変容薬,胆汁酸トランスポーター阻害薬,刺激性下剤などの薬物療法を検討する.浸透圧下剤の1つであるマグネシウム製剤は,高齢者や腎機能低下の患者にはマグネシウムの血中濃度が上昇しすぎないよう注意が必要である.
4)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 2025年改訂版心不全診療ガイドライン, 第12章 緩和ケア, 3 心不全における症状と対処法, 3.2.5 便秘 pp.190-191(2025年8月27日更新)
[https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf 2025年8月27日閲覧]より引用

監修者コメント

便秘はよく知られた一般的な症状であり、従来は、生命を脅かすようなものではないとされてきましたが、Chang JY(海外データ)5)やSumida K6)らの報告などから、近年では、便秘は生命予後に影響すると考えられてきています。
我々の研究から、便秘症を合併した急性非代償性心不全患者は、全般的な生存率、心血管疾患に対する生存率ともに低くなる可能性があることを紹介しました。
心不全患者には便秘症の併存がよく見られますが、その理由として次のようなものが考えられています。
① 交感神経の亢進により腸管への血流が低下しており、腸管運動が障害され便秘が引き起こされる(海外データ)7)
② 高齢の患者が多く、高齢であること自体が便秘のリスクファクターとなっている(海外データ)8)
③ 水分摂取制限や利尿薬の服用により全身の水分量が減少していることから、便の水分量も減少している(海外データ)9,10)
実際、我々の研究において、傾向スコアマッチング法によりマッチさせる前の患者の背景をみると、便秘症合併群は、便秘症非合併群に比べ、年齢、一部の利尿薬の処方率が有意に高くなっていました(年齢:p<0.001、Mann-Whitney U検定、ループ利尿薬の処方率:p=0.033、Fisher’s正確確率検定、トルバプタンの処方率:p<0.001、Fisher’s正確確率検定)。しかし、これらの因子も含めてマッチさせた両群の死亡率を比較したところ、便秘症合併群で高い結果となったことから、便秘症は心不全患者の死亡率に関与する独立したリスクファクターになりうることが示唆されました。
心不全の予後に影響を与える基礎疾患として、糖尿病、脂質異常症、高血圧などがよく知られています。国際的なガイドライン(「ESC診療ガイドライン 急性・慢性心不全管理2023」11))でも、これらの合併症を有する患者への対策の重要性が強調されています(海外データ含む)11-14)。しかし、当研究の結果から、便秘症の合併についても留意すべきと考えます。また、今回ご紹介しましたように、このたび改訂された「2025年改訂版心不全診療ガイドライン」4)においても、はじめて便秘に関する記載が設けられ、注意喚起が図られています。
心不全と診断し、さらに予後の悪化を確認した際には便秘症の合併も考慮する必要があります。便秘症を合併していれば、便秘症に対する早期介入、すなわち、食事療法、運動療法、そして薬物療法などの実施を検討することは、心不全治療の一環として重要ではないかと考えます。

4)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 2025年改訂版心不全診療ガイドライン, 第12章 緩和ケア, 3 心不全における症状と対処法, 3.2.5 便秘 pp.190-191(2025年8月27日更新)
[https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf 2025年9月16日閲覧]より引用
5)Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832
6)Sumida K, et al.: Atherosclerosis 2019; 281: 114-120
7)Sandek A, et al.: J Am Coll Cardiol 2014; 64: 1092-1102
8)Corella D, et al.: Ageing Res Rev 2014; 18: 53-73
9)Kaplon-Cieslicka A, et al.: Heart 2022; 108: 1179-1185
10)Mullens W, et al.: Eur J Heart Fail 2019; 21: 137-155
11)McDonagh TA, et al.: Eur Heart J 2023; 44: 3627-3639
12)Lehrke M, et al.: Am J Med 2017; 130: S40-50
13)Nakagomi A, et al.: Circ J 2012; 76: 2130-2138
14)Di Palo KE, Barone NJ: Heart Fail Clin 2020; 16: 99-106

2026年6月作成

便秘診療のコツ

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